メキシコの治安は、本当に世間で言われているほど「最悪」で「危険な国」なのでしょうか?
マフィア、暴力、銃の事件、国境問題、麻薬など、暗い話ばかりが飛び交いますが…感覚的には、その「イメージの中のメキシコ」と「実際のメキシコ」の間には、大きなギャップがあります。
今回は、
- なぜこんなに「危険な国イメージ」がついたのか
- 事件現場の「衝撃写真」が世に出回る背景
- 実際のメキシコの治安はどうなのか
の3つのテーマについて紹介します。
もくじ
メキシコの治安は、「中南米にしてはかなりいい」
Google検索で、「メキシコ」と打つとまず出てくる予想ワードが、
「メキシコ 治安」
の文字。
メキシコの治安、やっぱり気になりますよね。
仕事や旅行で行く際にも、心配する人は多いです。
わたしも、誰かにメキシコに通っていることを話すとまず真っ先に聞かれるのが「治安面」だったりします。
わたしは、今まで旅行者として60か国ほどを回り、メキシコには何度も行っています。その旅の経験からメキシコの治安について「ひいきナシ・誇張ナシ」の上で一言で言うと、
「中南米にしては、かなりいい」
って感じです。
というか、実は「中南米なのに、どうしてそんなに治安がいいんだろう?」と驚くほどだったりします。
(↑)平和なオアハカ市の街並み
ニュースや新聞で見る「メキシコ」の姿
国際ニュースで見るメキシコは、かなり酷いですね。
マフィア、抗争、麻薬戦争、カルテル、殺人事件、密輸…
とにかく、思いつく限りの犯罪が起こっている国、というイメージだと思います。
日本だけでなく、お隣のアメリカも含め世界中の人がそう思っています。
どこの国でも、海外ニュースで流す場合ひどい出来事しか話題性がないので…。
わたしも実際に行くまでは「メキシコは麻薬と殺人、骸骨とテキーラの国」というイメージくらいしかありませんでした^^;
しかし、もちろんこれはメキシコの一面性に過ぎません。
この「メキシコは凶悪犯罪の国」というイメージの背景には、ちょっとしたカラクリがあります。
ニュースで報道される数々の悲惨な事件
ニュースで報道される「悲惨な事件」がなかったのかというと、決してそういうわけではありません。すべて本当にあった事件です。
有名どころで言うと、元女性市長が就任直後にバラバラになって発見されたり、街で突然勃発したマフィアの抗争により数百人死亡、大学生が数十人行方不明など…。
ニュースで探せばいくらでも出てくるのですが、とにかく悲惨な事件は実際に起きています。
それらの事件が世界中で話題になるのは、その「事件の残虐性」によるものです。ただ命を奪うだけでなく、わざわざバラバラにしたりと、普通では考えられないような事件が起こります。
なぜメキシコでは残虐な事件が起こる?
世界に治安の酷い国は数あれど、メキシコほど残虐な事件はあまり聞きません。
では、なぜメキシコではそんなに残虐な事件ばかり起こるのでしょうか?
理由① マフィアグループが対抗組織を威嚇するため
ほとんどの殺人事件や凶悪事件や抗争は、麻薬取引や麻薬カルテルと関係しています。そして、事件の被害者のほとんどは、そのメンバーだったり、取引に何かしらの形でかかわった人たちです。
このような残虐な事件は、マフィアによる対立組織への報復や見せしめのために起こるので、わざわざなるべく派手で酷い事件に仕立て上げます。 そして、
「自分たちはこれだけ酷いことができる」
「自分たちに逆らうとこうなるぞ」
と、対立組織やカルテルに対して、威嚇し、脅しをかけているのです。
それで、ただ命を奪うだけでなく、とにかく考えられる限り残虐な事件にして、それがなるべく世間で話題になるように遺体を目立つところに置いていったりします。
こうすれば、話題性も出て新聞にも取り上げられ、「威嚇効果」が高まるのです。
ここまでされるのは、相当対立が深まった時の相手組織メンバーや、組織に対して宣戦布告をした人たちがほとんどで、一般の人がここまで悲惨な目に合うことは滅多にありません。
理由② メキシコの新聞はすべてを載せるから
そしてメキシコでは、新聞社によっては事件を「すべてそのまま」記事として公開します。
「すべて」というのは、見つかった時の遺体の写真(目元以外はモザイクもナシ)、関わっていると考えられる組織、その場に残されたメッセージなど、とにかく見つかるものすべてです。
特に地元紙は、(日本では絶対に考えられないのですが、)恐ろしい遺体の写真を新聞の一面に持って来たりします。
しかし、事件に関わっていると考えられる組織について批判的なことを書いた場合、マフィアに襲撃される恐れがある(実際に、過去にそんな事件がありました…。)ので、新聞社側も下手なことは書けません。
わたしもメキシコにいる時は、道端のキオスクに置いてある新聞によく誰かの遺体が載っているのを見かけました。
最初は、「こんな写真が新聞に載ってるなんて!」と仰天したものですが、メキシコの人にとってはこれは普通のようで、みんな慣れた様子です。
しかも、写真のモザイクは目元に申し訳程度(棒1本分くらい)にかかっているだけなので、誰だかすぐにわかるレベルです。(ちなみにどこかが切断されている場合、それもそのまま載っています…。)
インターネットに「メキシコの凶悪犯罪記事」として出回る写真は、この新聞に載った写真たちです。
普通、事件の写真があまりにもひどい場合写真は公開されないものですが、メキシコにはどんな酷い事件でも公開する新聞社がたくさんあります。
それらの新聞社が載せた写真がコピーされ、インターネットを通して世界中にメキシコで起きた「ひどい事件」の写真が広まります。
- 残虐な事件発生
↓ - マスコミが写真を手に入れる(警察よりも先に情報を入手することも)
↓ - その衝撃写真を記事に掲載
↓ - 衝撃写真が海外に広まる(インパクトがあるので頻繁に取り上げられる)
こうして、ひどい事件の写真や情報は世界中に衝撃的な写真とともに広がり、「メキシコ=凶悪犯罪の国」というイメージが定着する理由のひとつになりました。
日本でも、「メキシコの危険性があらわになった!」と世間を騒がせた衝撃本(↓)で語られているのは、そんな「裏世界」の内容でした。
(↑)「商品説明」を読むだけで人間はここまで残酷になれるのか、とぞっとするような内容です。しかし、どうかここに書かれているのは「ほんの一部」の話であって、決してメキシコ全体の話ではない、ということを頭に置いておいてください。
事実関係を確認しよう(2016年のデータから)
2016年のデータ
殺人事件の被害者数 | 23,000人が、殺人事件に巻きこまれ死亡した。 この数は戦争中のシリア60,000人に続く、世界第二位。(日本は289人) |
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行方不明者数 | 30,000人(内5,563人は、メキシコ北部のタマウリパス州より) |
事件の多いエリア | チワワ州最大の都市Ciudad Juarezをはじめとする、メキシコ北部で事件が多い |
被害者の特徴 | 殺人事件被害者・行方不明者数の大部分が成人男性 |
う~ん…暗いですね。
データを見ると、やっぱりメキシコは「犯罪多発国」としか言いようがありません。
…しかし、このデータを見てみたらどうでしょうか?
ほかの中南米の国々とフェアに比べるため、1年に起きた殺人事件数を総人口と割って、10万人あたりの死亡者数を出した「殺人事件被害率」のレートです。
- メキシコ 19/100,000人
- グアテマラ 27/100,000人
- ホンジュラス 59.1/100,000人
- エルサルバドル 81.7/100,000人(2015から大幅に改善)
- ベネズエラ 90/100,000人(政府発表の場合でも、58/100,000人)
- コロンビア 24.4/100,000人(急激に治安改善中)
こうやってみると、中南米の多くの国がメキシコよりも高い「殺人事件被害率」になっていることがわかります。
メキシコは大きな国で、人口の母数が大きいので、「殺人件数」だけで見るとやはりかなりトップに躍り出てしまうんですね。
だから、「世界で2番目に犯罪の多い国」として騒がれますが、実体は、他の多くの中南米諸国よりも安全なんです。
それにしても、ベネズエラはひどいですね^^;
ここ数年は、旅行者仲間の間でも「今はベネズエラには(治安上の問題で)行けないね。」と全員意見一致しているほどです。
ベネズエラにおける殺人事件数は、政府発表では18,000人ですが、「Venezuelan Violence Observatory(ベネズエラ暴力調査)」の発表では28,000人となっていて、メキシコ超えです。(国は、治安の悪さを示すような数字を改ざんすることがあるという証拠。)
ちなみにコスタリカ、ニカラグア、チリ、アルゼンチン、ペルーなどの国は、メキシコよりもさらに安全な低いレートが出ていました。
2012年のデータ
photo by UNODC(国連薬物犯罪事務所), CC BY-SA 4.0
(↑)2012年の殺人事件数データ(10万人あたりの被害者数)です。
「20以上」といっても、メキシコのようにギリギリのところもあれば、ベネズエラのように悠々と超えてくるアウトな国もあります。
あの国はどこに消えた?
ところで、ラテンアメリカにはもう一個所「危険すぎる」と有名な国があります。
そう、ブラジルです。
ブラジルは、メキシコより(旅行者の感覚的に)明らかに危険で、人口もメキシコの約1.7倍なのに、どうして犯罪発生数がメキシコよりランキングが下なのでしょうか?
ここにはあるトリックがありました。
隠された殺人事件数
なんと、「殺人事件被害率」を低く見せかける方法を発見しました。
それが、「とりあえず行方不明者ということにしてしまう」、という方法!(本当に見つからないのかもしれませんが…)
- アメリカ合衆国では、毎年90,000人が行方不明
(NamUs:国立行方不明者組織のTodd Matthews氏) - ブラジルでは、毎年250,000人(!)が行方不明
(ブラジル法務省調べ)
なんと、「行方不明者数」を見てみると、アメリカ合衆国はメキシコの約3倍、そしてブラジルは8倍以上もいるんです。
てか、ブラジル!250,000人ってひどすぎる!!(笑)
アメリカの人口はメキシコの約2.6倍、ブラジルの人口は約1.7倍なので、フェアになるよう確立で計算すると…
- メキシコ 24/100,000人
- アメリカ 28/100,000人
- ブラジル 121/100,000人(多!)
こんな確立で行方不明者が出ています。
ブラジルは話にならないほど酷いですが、実は行方不明者数だけ見たらメキシコはアメリカよりもマシなんです。
未成年の行方不明者数について
また、
- アメリカの90,000人が行方不明者数のうち、40%(=毎年約36,000人)
- ブラジルの250,000人の行方不明者数のうち、16%(=毎年約40,000人)
が、未成年。
メキシコの殺人事件被害者・行方不明者の大部分は、先ほども言ったように「マフィアに関わった成人男性」なのに対して、アメリカとブラジルの被害者の多くが、「子ども」なのです。
彼らの生存確立を考えると、メキシコのデータである、
【殺人事件被害者・行方不明者合計55,000人(内訳:ほとんどマフィア関係者)】
は、だいぶまともに見えてきませんか?
まとめ:実際のメキシコの治安はどうなのか?
相対的に見た、メキシコの旅行者にとっての安全度(&治安)は、【良くもなく、悪くもなく】。しかし、多くの人が想像するよりもずっと良いです。
わたしの感覚的には、イタリアのローマや、スペインのバルセロナくらいの治安かな~という感じです。
南アフリカ、ブラジルより数10倍安心できます。
旅行者としての感覚的にも、そして実際のデータを見てみても、メキシコの治安はほかの多くのラテンアメリカの国々よりもずっと良いです。
さて、まとめると、メキシコが異常に「治安の悪い国」扱いされるのには、こんな背景がありました。
- マフィア同士の威嚇行為のため、あえて見せしめのための残虐な事件が多くなる(マフィアは「人々に見つかるように」殺人事件を起こすため、行方不明者数よりも殺人事件数が伸び、政府は「行方不明者」として隠すことはできない)
- 事件を新聞や地元紙が「衝撃的な写真付き」で公開し、事件が世界に出回る→イメージ悪化
- もともとの人口が多いため、殺人事件発生数が多く見えてしまう
しかし、実体はこう。
- 中米諸国の中では、低い殺人事件発生率。(ブラジルやベネズエラなど周辺国の方が圧倒的に危険!!)
- 被害者の大多数が、マフィア組織や麻薬取引に関わった成人男性=関わらなければ一般人が被害にあう可能性は非常に低い
- 事件の大多数が、メキシコ北部で起こっている=北部以外にいれば安全
- 実は行方不明者レートは低い。(アメリカ合衆国や中南米のほとんどの国よりも。)
- 未成年者が被害にあう可能性は低い
…どうでしょうか?
いろんなニュースを見ると信じられないかもしれませんが、メキシコについては簡単に言えば
「危険組織と関わらなければ平和な国」
というのが実態なのです。
主要な観光地の治安について
観光に行く分には十分安全ということを証明するデータもあります。
メキシコにやって来る大多数の観光客がアメリカ人なのですが、FBIとアメリカ合衆国国務省の発表によると、メキシコ全地における「アメリカ人が被害に合う確立」は、たったの2.1/100,000人。
アメリカ人が行くのはほとんどの場合、カンクンかメキシコシティ、そしてロスカボスというカリフォルニアの近くの半島(リゾート地)です。日本人観光客の旅行の行先も、ほとんどのその二か所。
このデータからも、「メキシコで観光客が殺人事件に巻きこまれる可能性は、とても低い」ということがわかると思います!
観光客がよく訪れる首都「メキシコシティ」や、ユカタン半島のビーチリゾート「カンクン」、「ロスカボス」などのいわゆる観光地は、人々が想像するよりもずっと平和です。
それぞれ、データで見てみましょう。
カンクンの治安について
スタンフォード大学のレポートによると、カンクンの殺人事件被害率は、
たったの1.83/100,000人
とのこと。
この数字は、実は「レート4.88」のアメリカ合衆国(全体)や、その他のすべての中南米の国々よりもずっと低いです。
近い数字の場所は、
- 1.58のフランス
- 1.68のカナダ
- 1.60のフィンランド
- 1.95のベルギー
どれも比較的安全なイメージの国ですよね。
つまり、カンクンに行くのは、フランスやカナダ、フィンランドに行くのと変わらないほど安全ということです!
しかも、カンクンではビーチを楽しむのがメインで、ツアー以外では基本的にはほとんどホテルから出ないと思います。
ビーチ前にホテルが立ち並ぶ「ホテルゾーン」は、特に安全度が高く安心です。
カンクンの他にも、「Puerto Vallarta(プエルト・バジャルタ)」という人気のリゾート地も、5.9/100,000とかなり低め。
しかし、「Acapurco(アカプルコ)」というゲレロ州にあるメキシコ人人気No.1のリゾート地は、マフィアの抗争が起こる確立も高いので、リスクを避けたい人は避けた方が良さそうです。
カンクンについてのさらに詳しい治安情報・気を付ける点などは、こちらの記事で紹介しています。
メキシコシティの治安について
メキシコの首都メキシコシティの数字は、
8.4/100,000人
です。
カンクンよりは少しリスクが上がるものの、メキシコ全体の「平均19/100,000人」の半分以下。被害者の内訳も、ほとんどが普通の人は行かないエリアや麻薬取引関係者に限られています。
メキシコの2大観光地であるカンクンとメキシコの、これらの数字を見れば、観光する分には過剰に心配する必要はないということが分かると思います。
最低限の注意は必要だけど、命の心配は基本ナシ
というわけで、とりあえず一番大切な「命」については基本心配ありません。
特に、観光客として旅行に行くのであれば、北部に行くことはほとんどないと思いますし、北部でも一般人が抗争に巻きこまれることは滅多にないはずです。
もし万が一、不幸にもバスジャックや強盗に遭遇してしまったら、決して逆らわず、言われるがまますべてを差し出しましょう。基本、言うことをきいていれば命の危険にまでは及ばないです。
何かあったとき用に、200~500ペソを入れたダミー財布を持っておくのも手です。(あまり少ないともっと出せといわれるので、ある程度は入れておきましょう。)
軽犯罪には注意を
カンクンは本当にとても安全ですが、メキシコシティではスリなどの軽犯罪はよく起こります。
わたしも何気、合計1年メキシコシティに滞在したら、ちょっとした軽犯罪にはあいました。(↓)
旅行者が本当に注意するべきなのは、こういった軽犯罪です。
特に地下鉄にはスリのプロ集団がいて、乗りこもうとする外国人観光客のポケットを狙っているので気を付けてください。また、人家のない夜道も一人で歩くのは控えましょう。
つまり、海外で守るべき基本的なことを守っていれば、身の安全は確保できるレベルです!
メキシコシティの治安については、こちらの記事で詳しく紹介しているので、もし行く場合は参考にしてください。
「行ってはいけない場所」については、一応知っておいた方がいいです。
やっぱり都市はある程度治安が悪くなるのは仕方ないのですが、田舎は本当に平和です。
メキシコシティ以外の街(グアナファト、オアハカ、カンクンなど)は、夜も出歩けるほど治安のいいところが多いです。
メキシコに行く際には、基本的なことには気を付けたうえで、あまり治安に怯えずに楽しんでください^^