オアハカ州の南部、海岸沿いの「イスモ地方(Izmo)」には、とても美しい花刺繍の伝統衣装があります。
もくじ
イスモ地方のウイピルについて
日本の雑貨屋などでは「イスモ刺繍」と刺繍単体で呼ばれていますが、フチタンのウイピルなので、英語圏では一般的に「Juchitan-huipil(フチタン・ウイピル)」と呼ばれています。
イスモ地方にある、「フチタン」や「テワンテペック」と呼ばれる町で主に生産されています。
「ウイピル」とは?
「ウイピル」とは、メキシコ南部やグアテマラを網羅するマヤの人々が伝統的に着ている民族衣装のこと。
「貫頭衣」と呼ばれ、一枚の織物に頭の部分に穴があけられたシンプルなかたちの服です。
凝った織物で作られたり、美しい刺繍がほどこされたりすることが多く、世界中にファンやコレクターがいます。
イスモのウイピル特徴
イスモ地方の「ウイピル」には様々な装飾がつけられます。
- リボンが縫い付けられたもの
- 刺繍がほどこされたもの
など。
特に人気が高く現地の人にとっても「晴れ着」的存在なのは、大きな花の刺繍のほどこされたウイピルです!
イスモの衣装にほどこされる花刺繍の特徴は、とにかくその鮮やかさ!!
花びら一枚一枚に美しい色のグラデーションが表現されています。
↑ このウイピルは、特に細かい刺繍でグラデーションが表現してある美しい作品ですね。
かつて、メキシコを代表する女流画家「フリーダ・カーロ」のお気に入りでもあったこのイスモ地方のウイピル。
大きな花のものほど、刺繍するのが難しく、数も少ないです。
彼女が気にいってよく着ていたものも、立派な大柄の花刺繍がほどこされたものでした。
イスモのウイピルの、グラデーションを活かしたカラフルな花の刺繍は、今でも多くの人を魅了しています。
↑ このように、カラフル幾何学模様の刺繍と組み合わせたものもあります。
刺繍に使われる技術
最も高価で美しいウイピルにほどこされるイスモ刺繍に使われる技術は、「サテン・ステッチ」という、面を埋めていくスタイルの最も基本的な刺繍です。
基本的に、ほかの技術は使われず、シンプルにサテンステッチのみで花々が描かれます。
花の中心の花粉部分を表すときには、「フレンチノット・ステッチ」という、ポツポツとした結び目を表面に持ってくることも多いです。
↑ 真ん中部分がフレンチノット、花びらはサテンステッチです。
刺繍作業には時間がかかり、一枚のウイピルを完成させるのに1か月以上かかることもあります。
手刺繍と機械刺繍
最近は、イスモ柄の「機械刺繍」も増えてきました。
機械刺繍もとても美しく、花の刺繍がサテンステッチ風で表現されています。
↑ 機械製のもの。
オアハカ市内のお店でも、イスモ柄の機械刺繍をあしらったカバンなどが販売されています。
手刺繍のフチタン・ウイピルは数が少ないので、今まで需要に供給が追い付かないことがありました。
機械刺繍によって、よりたくさんのフチタン・ウイピル柄の商品を作ることができるようになったので、使い道の幅も広がりました。
たとえば、フチタン・ウイピル柄の靴など、とてもかわいくて大人気です。
手刺繍を靴に使うのはもったいなくてできないので、機械刺繍の導入によって、より幅広くイスモ刺繍を楽しめるようになったと思います。
しかし、同じデザインで大量生産できてしまう機械製よりも、世界に一枚だけしかない手刺繍の方が、まだまだ人気が高いです。
手刺繍ものは、現在海外でもものすごい高値で出回っています。
手刺繍のウイピルはレアもの?!
メキシコ雑貨や民芸品の販売が盛んなメキシコシティでも、なかなかこのウイピルを見かけることはありません。それだけ、市場に出回っている数が少ないのです。
わざわざ生産地であるオアハカ州まで、このイスモ地方のウイピルを買い求めにやって来る人達もいます。
その多くは、フリーダ・カーロのファンや、イスモ刺繍の美しさに惚れ込んだ人々です。
しかしファンの数が多く、良いものが出てきてもお買い得な物はすぐに売れてしまうので、年々値段が上がってきています。
この刺繍ができる人が減ってきているのも、市場に出回る数の減少の原因です。
シンプルな花のデザインであれば簡単に手に入れることができても、大きな花となるとなかなか見かける機会もありません。あったとしても、とんでもなく高い値段だったりする、「レアもの」なのです!
グッズに加工される中古の手刺繍ウイピル
手刺繍は、とても価値が高いので、中古の手刺繍ウイピルは、加工されて上の写真のようなバッグにリメイクされることもあります。
服として着られなくなっても、美しい刺繍を残しておく知恵ですね。
民族衣装への見方を変えた刺繍
このイスモ刺繍に対する人々の目は特別なものです。
フリーダ・カーロは、この衣装を着て、当時の「民族衣装は古い・価値のないものである」というメキシコ国内の世間論を一蹴しました。
海外では、「あのフリーダ・カーロが着ている素敵な服はなんだ」と話題になり、世界で最も有名な民族衣装のひとつになりました。
メキシコの民族衣装を語る時に、この刺繍の重要性は語りつくせません。
これからも、メキシコの中で最も重要な民族衣装のひとつとして、大切にされ続けるでしょう。
この記事には、続きがあります。
⇒フチタンは、女の都!世界に感動を与えた「伝説の伝統衣装」とは
イスモ地方のこの民族衣装の生産地の一つである「フチタン」と、この刺繍服の歴史について紹介しています。