最も素晴らしいメキシコの民芸品コレクションを持つコレクター、「Ruth D. Lechuga」さんについて紹介します。
もくじ
メキシコの民芸品コレクター
わたし(筆者)は、メキシコの民芸品のコレクターです。
メキシコの民芸品を集めているコレクターは、日本にはあまりいませんが、世界を見渡すとたくさんいます。
特にメキシコのお隣アメリカには特に多く、ユニークな世界観・デザイン、色彩感覚が評価されています。
実は、歴史的に見ても、メキシコの民芸品産業は海外コレクターによって盛り上がり、現在も成り立っている部分があります。
それほど、民芸品産業において、コレクターたちの存在は大きいのです。
ちなみに、わたしは全然支える側ではありません。
支える側のコレクターの代表は、例えばアメリカの大富豪、ロックフェラーさんなどです。
そして、そんな数多いコレクターたちの頂点に立つ存在が、タイトルにある「レチューガさん」です。
レチューガさんについて
レチューガさんの本名は、「Ruth D. Lechuga」(1920-2004)。オーストリア生まれの女性です。
おそらくメキシコ民芸品コレクターの中では知らない人はいないほど有名なコレクターで、コレクション数は軽く一万点を越します。
集めたものの多くが、歴史的・文化的な価値が高い、とても優良なコレクションです。
2004年に亡くなり、現在彼女のコレクションは博物館や「Artes de México」というメキシコのアートを専門に扱う雑誌会社に寄付されています。
レチューガさんの経歴
彼女の母はユダヤ人でした。ヨーロッパでのユダヤ人迫害から逃れるため、1939年、彼女が19歳の時、家族で親戚のいたメキシコに逃げてきました。
彼女の父は医者でしたが、同時にメキシコの先住民文化を愛し、国内旅行によくレチューガさんを連れていきました。
父の影響もあり、彼女もメキシコの民芸品や民族アートを収集するようになり、カメラにも興味があった彼女は、写真家、文化人類学者として当時のメキシコ先住民の暮らしをとらえた多くの貴重な写真を残しました。
最初は医者でしたが、後にメキシコの民族アートや工芸品の博物館で勤めはじめます。
メキシコの先住民文化についての本もたくさん出版し、当時の先住民文化の記録と保護に貢献しました。
なぜこんなにたくさんの民芸品を集めることができたのか?
「コレクターの頂点に立つ存在ということは、彼女もお金持ちだったのか?」
となりそうですが、経歴を見ると分かる通り、ロックフェラーのような富豪だったわけではありません。
では、レチューガさんは、なぜこんなにもたくさんの民芸品を集めることができたのでしょうか?
そこには、2つの理由があります。
1.当時の物価
昔のメキシコはとにかく物価が安く、なんでも安く手に入りました。彼女は最初医者として働いていたので、メキシコの中では比較的高給取りでした。
働いて得たお金を使って、少しずつ民芸品をコレクションしていきました。
2.先住民の価値
当時、先住民文化は人々からまったく価値を認められず、彼らの作るものも「価値のないもの」として扱われていました。
だれも民芸品について知りませんでしたし、買おうという人もほとんどいませんでした。
なので、民芸品や民族アートは、当時の物価を考えても、ものすごく安い値段で売られていました。
職人にとっては、レチューガさんのように自分たちの芸術作品を認めてくれる人の存在は、とても嬉しいものだったはずです。
レチューガさんのコレクションの素晴らしさ
わたしも、この間の2017年1月に、彼女のコレクション・ルームを訪問させてもらいました。
素晴らしいコレクションでした!
その時に感じた「レチューガさんのコレクションの素晴らしさ」について、3つ紹介します。
1.文化的価値の高さ
レチューガさんのコレクションは、彼女自身の手によって、メキシコ全土から集められています。
なので、ほぼすべてのコレクションについて、どこのものなのか、いつ作られたものか、素材は何か、どの民族が作ったのかなどの重要な情報がわかり、なかには職人名まで記録されているものもあります。
彼女のコレクションは、当時の人々の文化を記録した、国にとって重要な文化資料でもあるのです!
3.保存状態の良さ
コレクション全体の保存状態がとてもいいのも、重要なポイントです。
昔は、民芸品といえば「日常生活で使うもの」が多かったので、陶器、紙類、その他もろい素材のものは、元の状態(色、柄など)がわからないものも多くなっています。
しかし、レチューガさんはそんな民芸品も最初から「文化資料」として保管してきたので、どれもとても状態がよく、当時の民芸品の姿をとても正確に知ることができます。
2.レアものの多さ
彼女のコレクションは、とにかくレア物が多いです!
さっき紹介したように、当時は民芸品を欲しがる人がほとんどいなかったので、彼女しか持っていないものもたくさんあります。
- 当時の地域の祭りのために特別に作った道具
- 現在のデザインのもとになった民芸品の元祖
- 博物館でしか見られないレベルの精巧なミニチュア
- 他で見た事のない、蝋でできた仮面
- 当時の職人が自らの限界に挑んだもの
などなど、普通では絶対に手に入らないようなものがずらり。
↑ 大量の仮面コレクション。
熱心なコレクターの中には「どれだけお金を積んでもいいから買い取りたい」と言う人もいそうです。
このコレクションルームには、1泊したいくらいでした。
それくらい、レア物まみれです!
レチューガさんのコレクションが見られる場所
レチューガさんのコレクションは、2016年からメキシコシティの「Franz Mayer Museum」地下の特別室に保管されています。
アポイントメント・オンリー(予約制)で公開されているので、興味のある人は行ってみてください。
最高のコレクションを見ることができます。
↑ しかも触れます!
まとめ
レチューガさんは、誰も目を向けていなかったころからメキシコの民芸品をコレクションしていた、コレクターの先駆者でした。
まだ、民芸品の価値がまったく注目されず、評価されていない頃から「これは素晴らしいものだ!」と信じて集めた結果、他に類を見ないほど素晴らしいコレクションになりました。
彼女のコレクションの素晴らしさは、先見の目の賜物だと思います。
コレクターとしてだけでなく、写真家、文化人類学者としても活躍した彼女を、わたしもとても尊敬しています。