最近、日本でも大人気のメキシコ刺繍を作る、オアハカの「サン・アントニーノ村」を紹介します。
村の正式名称は「San Antonino Castillo Velasco(サン・アントニーノ・カスティージョ・ベラスコ)」。
この村は、刺繍服で世界的に有名で、今も腕の立つ刺繍職人さんがいっぱい住んでいます。
もくじ
サン・アントニーノ村の刺繍服とは?
サンアントニーノ村の刺繍服(伝統衣装)とは、オアハカの「サンアントニーノ村」で作られる、パンジーなどの花柄が刺繍された美しい民族衣装です。
パンジー以外にも、カラフルな花や鳥、蝶などの細かい手刺繍がほどこされることも多く、ブラウスやドレスの袖、胸元、腹部に細かい花をぎっしりと刺繍します。
この写真は、民芸品美術館「MEAPO」で見かけた、とてもクオリティーの高いサンアントニーノ村の衣装です。
見ているだけで明るい気持ちになれる、美しい服です!
サンアントニーノの伝統衣装に使われる技術
1.刺繍
刺繍の部分は、ほとんどすべてサテン・ステッチ(面を埋めていくシンプルな技術)で、コツコツと作られています。
パンジー刺繍の場合、クオリティーの高いものほど、一つのパンジーに使う色の数が多く、美しいグラデーションで表現されます。
ほとんどの場合、一つの衣装を作る時には、胸元、袖などいくつかのパーツに切り分けて、それに刺繍を施したものを繋ぎ合わせています。
2.デスイラード
網のように透け模様になっている部分は、「デスイラード」と呼ばれる技術がほどこされたものです。
これは、布の横糸を取り、残った糸をねじってから模様を編みだす、とても高度な技術です。網模様だけでなく、女の子や踊り子の模様になることもあります。
3.アベルシープエデス、アスメシープエデス
ドレスの胸元には、
- 「a ver si puedes(アベルシープエデス)」
- 「hazme si puedes(アスメシープエデス)」
と呼ばれる刺繍技術が施されることがあります。
技術名の意味は、スペイン語で「作れるものなら作ってごらんなさい」。
この名前は、この技術がどれだけ高度で難しいものなのかを表していて、この技術を一人前に習得するまでに数年かかると言われています。
生産者がどんどん減っている今は、できる人の数も少ないようです。
布の折り目をひとつひとつ数えながら、慎重に刺繍していきます。男の子や女の子のデザインが多いです。
サン・アントニーノ村の衣装の種類
衣装のクオリティーは、刺繍面積が少なく数日で完成する「商用」と呼ばれるシンプルな物から、数か月~半年かかる最高クオリティーのものまで、様々です。
クオリティによって値段が変わる
値段も幅広く、たとえば簡単な刺繍のものはオアハカ市の道端で200ペソ(約1200円)ほどで買うことができますが、数ヶ月かけて作られた素晴らしい作品などは、10,000ペソ(約6万円)以上するものもあります!
実際に、わたしもコンテスト優勝作品を作家さんに見せてもらったこともあり、奥から大事そうに抱えてきた刺繍の値段を聞いたら15,000ペソ(約9万円)でした。
村の女性の着る刺繍服
村の女性は、最近は伝統衣装を着ている人自体少なくなってきていますが、商用のものよりも、しっかりしたクオリティーのものを好んで着ています。
自分たちの衣装と文化に誇りを持っているからでしょう。
技術の限るを尽くし美しく刺繍をした「最高クオリティー」を常に着ている人はおらず、普段は汚れてもいい簡単な服を着て、ここぞという時は自信作を着るなど、場面に合わせて使い分けているそうです。
結婚式用の花嫁衣装
最高クオリティーのワンピースは、かつて結婚式で着るための花嫁衣装でもありました。
サン・アントニーノ村の刺繍服を買う方法
サンアントニーノ村の刺繍服(ワンピースなど)を手に入れる方法を紹介します。
日本で手に入れる場合
日本では、多くのメキシコ雑貨店で取り扱いがあり、オンラインショップ・通販でも販売があります。丁寧に刺繍された高クオリティーの新品は、だいたい3~5万の間で販売されているようです。
今はいろんなショップがサンアントニーノ刺繍服を販売しているので、覗いてみるといいかも。専門店はクオリティも高いです!
楽天でも、中古がメインですが一部取り扱いがあります。
>今販売中のサンアントニーノ村の刺繍服一覧(楽天)
一品ものなので、在庫がある時・ない時があります。その他、メキシコ雑貨専門店のウェブショップもチェックしてみるといいと思います!
メキシコで手に入れる場合
メキシコでは、基本的に生産地の「オアハカ」まで行かないと手に入れるのは難しいです。
メキシコシティでも取り扱っている店はありますが、かなり少ないのと、刺繍のクオリティーなどを考えると、オアハカで買う方が圧倒的にコスパがいいです。
ただ、お値段も結構しました…。土曜日にメキシコシティにいる人は、行ってみるといいかも。→サンアンヘルの土曜市について
1. オアハカ市内で探す
サンアントニーノ村の刺繍服は、オアハカで最も人気のある民芸品の一つなので、オアハカ市のショップを巡れば、簡単に見つけることができます。
オアハカの中心地にあるサント・ドミンゴ教会の前には、ほぼ毎日刺繍服の屋台が出ています。
あとは、このサントドミンゴ教会〜ソカロを繋ぐアルカラ通りにある「Huizache」というお店にもたくさん取扱がありました。
このお店は、職人さんから直接仕入れて販売しています。(作った職人さんご本人がお店にいることもあります)
2. ティアンギスで探す
オアハカの郊外の村で定期的に開催されているティアンギス(青空市)でも、手に入れることができます。
サンアントニーノ村の刺繍服が多いのは、オコトラン村のティアンギスです。
オコトラン村は、サンアントニーノ村のすぐお隣(距離でいうとたったの1km)なので、売りに来ている人が多いです。
オコトランのティアンギスは毎週金曜日に開催されます。金曜日にオアハカにいる人は、ぜひ足を伸ばしてみてください!
3. 直接生産地の村まで行く
特別クオリティーの高いものを探している場合は、直接生産地のサンアントニーノ村に行けば何件かのショップを見つけることができます。
写真はNGのことが多いので、どうしても写真を撮りたい(もう一度考えてから買いに来るため、など)時はお店の人に聞いてみてください。(↑の写真は、許可をとって撮影させてもらいました。)
サンアントニーノ村の場所については、この記事の最後に紹介しています。
刺繍される花のデザインと歴史について
サンアントニーノ村の近くでは、花の生産が盛んです。
この村の衣装は、そんな「身近によく見る花たち」がモデルになりました。
刺繍される花は、バラやパンジー、添えにカーネーションなど、華やかな花が多いです。
バラは、「ロサ」「ロシータ」と呼ばれ、昔からある伝統的なデザインです。
あまりバラには見えませんが、これはこれでとても可愛いらしく、特徴的なデザインです。
かつては、バラのものしかなかったのですが、最近はパンジー柄の人気が高まってきています。パンジー柄がポピュラーになってきたのは、外国人の影響だと言われています。
パンジーは、花びら一枚一枚のグラデーションが表現されたものが、特に人気があります。
↑ この刺繍には、銀色の糸も使われています。太陽にあたると、キラキラして綺麗!
↑ パンジーの花びらのグラデーションが美しい作品。写真右端にはバラの刺繍(単色)も施されています。
バラのデザインは、誰のものもほとんど一緒なのですが、パンジーは職人によってデザインが大きく異なります。
好みのパンジーを探して職人を探すのも楽しいです!
サンアントニーノ村以外でも作られている
「サンアントニーノ村の衣装」として有名ですが、となり村の「San Juan Chilateca(サン・フアン・チラテカ)」という村でも、ほぼ同じデザインの伝統衣装が生産されています。
サン・フアン村の衣装も、サン・アントニーノ村の衣装と同じくらい長い歴史があり、とてもよく似ていますが、村人からすると微妙に異なるのだそうです。
わたしが見たところ、サンフアン村では「サテン・ステッチ」の技術だけでなく、「フレンチ・ノット」の技術を使っている人が多いように感じました。
↑ これは、「フレンチ・ノット」技術も使われたサンフアン村のものです。
また、木彫り動物「アレブリヘ」で有名な「サンマルティン・ティルカヘテ」という村にも、とても美しいサン・アントニーノ村の衣装を作る若い職人がいます。
最近は、サン・アントニーノ村、サン・フアン村に限らず、オアハカのほかの村に住む人にも、学びたい人には積極的に技術を教えているようです。
その背景には、村の若者が刺繍産業を継ぎたがらない(より稼げる他の仕事を好む)のと、よりよい生活を求めてアメリカに移住する人が増加し、村内だけでは産業が続けてられなくなってきているという問題があります。
刺繍職人の紹介
有名な刺繍職人さんを紹介します。
マリア・グアダルーペさん
日本の雑貨屋が多く取引をしているのは、サンアントニーノ村に住む、マリア・グアダルーペさんという女性の職人さんです。彼女は、妹や家族とみんなで刺繍作りをしています。
彼女は、日本人のメキシコ刺繍好きの人々にとって、サン・アントニーノ刺繍の代表のような存在だと思います。
安定したクオリティーと、美しいパンジーのグラデーションが、マリアさんの人気の秘密です。また、刺繍に光沢のあるシルク糸を使用しているので、刺繍の部分が浮かび上がるようなとても美しい作品に仕上がります。
サンアントニーノ村に住むほかの職人
日本ではあまり知られていませんが、サンアントニーノ村には、マリアさんの他にも美しい作品を作る職人さんがたくさんいます。
ビルヒニア・サンチェスさん
今は、ビルヒニアさん本人よりも彼女の5人の娘さんが刺繍をしていますが、この家族も、協力し合いながら伝統的な技を守りつつ、美しい刺繍作りをしています。
アントニーナ・コルネリオさん
アントニーナさんの元には、この村の周辺の刺繍技術を学びたい若者が訪れます。コミュニティー内で刺繍服作りのグループを作り、役割分担をしながら美しい作品を作っています。
オアハカの刺繍コンテストで優勝したこともある実力者で、「オアハカの巨匠」という本の中で、サンアントニーノ村から唯一掲載されている職人です。
サン・フアン・チラテカ村の職人
ファウスティーナ・スマノ・ガルシアさん
ファウスティーナさんはメキシコを代表する職人で、このタイプの刺繍服の生産者としては、第一人者です。
「オアハカの巨匠」に加え、国家レベルの巨匠だけが選ばれる「メキシコの巨匠」という本でも紹介されています。
たくさんの弟子を持ち、オアハカの村々からやってくる女性に刺繍を技術を教えています。
彼女の作品はすべて「最高クオリティー」で、刺繍服は一年に2,3枚しか作りません。今は、オーダーでのみ注文を受け付けており、一着の値段は3万ペソ(約18万円~)です。
かなり高い値段ですが、彼女の刺繍を一目見ればその値段には納得です。
↑ 最高クオリティーの刺繍服。パンジーのグラデーションが美しい!「a ver si puedes/hazme si puedes」の技術も見られます。
わたしが会いに行った時には在庫がひとつもなく、もし今注文しても「数年待ち」とのことでした。。さすが、人気作家さんですね!!
サン・アントニーノ村の場所と、行き方
サンアントニーノ村は、オアハカから所用1時間くらいで行くことができます。
行き方もあまり難しくないので、興味のある人は訪れてみるといいかも。
サンアントニーノ村への行き方
- オアハカから「オコトラン・デ・モレーロス」という、ティアンギス(先住民市場)が開かれる村を目指します。オコトランへの行き方はこちらの記事を参考にしてください。
- オコトランからサンアントニーノ村までは1kmほどなので、20分ほど歩くか、モト(オート三輪車タクシー)を使って行きます。
おすすめは、金曜日のオコトラン村のティアンギスに遊びに行き、その足でサンアントニーノ村を訪れる、という流れ。
オコトラン村からサンアントニーノ村は、モト(三輪タクシー)でひとり5ペソ(約30円)です。歩くと20分くらい。
暑くない日であれば、のんびり歩いて村の風景を楽しみながら行くのもいいかも。
オアハカの小さな村らしい、カラフルな壁とアーチ型の瓦屋根の家が続きます。
時間がゆっくり流れているように感じます。
モトに乗る場合、村の中心地まで連れて行ってくれます。
↑この辺りで下されると思います。
そして、中心地から歩いてすぐの大きな通りには、ショップもあります。
↑このピンク色に塗ってある「Avenida Castillo Velasco(カスティージョ・ベラスコ通り)」に、刺繍服のお店が集中しています。
(リンク先はGoogleマップです)
村の中心地側よりも、黄色い主要道路に近い側の方が刺繍服のショップは多いです。
もし、ショップではなく特定の職人に会いたいのであれば、村の人に聞けば家の場所を教えてくれます。(スペイン語オンリーです)
サンフアンチラテカへの行き方
San Juan Chilateca(サン・フアン・チラテカ)
オアハカからは、乗り合いタクシーで45-50分ほどです。
しかし、サンフアン村には、あまり職人がいません。いてもお店がないので、特別に職人を訪れるわけではない限り、気軽にショッピングしたい人はサンアントニーノ村がおすすめです。
「サン・アントニーノ村に刺繍服の買い物に行く」は、オアハカでしたい100のことのひとつです。
他にもオアハカの雑貨に興味がある人は、ぜひこちらの記事をチェックしてみてください!