メキシコの手仕事

デザイナーも注目!古代メキシコの伝統「エキパルチェア」特集。

メキシコを旅行しているとどこかで見かけることのある、無骨でおおざっぱなのに、どこか洗練されたデザインの椅子。

今回は、そんな「エキパルチェア」について詳しく紹介します!

エキパルチェアとは?

エキパルチェア(Equipal Chair)とは、メキシコで作られている、木と皮でできた、こんな形の椅子のことです。

エキパルチェア(茶色の革)

現在でもメキシコの人々の間で現役で使われているエキパルチェアですが、最近、そのユニークな形から世界中のデザイナーの間で有名になってきている、「話題の椅子」です!

エキパルチェアの歴史

アステカの古文書

エキパルチェアの歴史は、なんとスペインによる植民地化が始まる前、古代メキシコの「アステカ文明」の時代までさかのぼります。

スペイン人がアステカ王国の首都テノチティトランに到着した時、すでにエキパルチェアはアステカ人に使われていました。

「エキパル(Equipal)」とは、古代アステカ文明の言葉ナワトル語で「椅子」という意味。つまり、「Equipal Chair=椅子椅子」ってことになります。笑

より正確には、「Equipal」はスペイン語のつづりで実際は「Icpalli(イクパリ)」と呼ばれ、神や王が座る場とされていました。

実際にアステカ文明の時代には、聖職者たちがこの椅子を利用していたそうです。

エキパルチェアの材料

豚の鼻

そして、エキパルチェアの材料ですが、実は皮の部分は牛革ではなく「豚の革」でできているんだそう。

アメリカ大陸には、もともと牛や馬などの大型家畜は存在していませんでした。だから豚の革を使ったんだと思われますが…あれ?アメリカ大陸に豚なんていたっけ…?と思い調べてみました…

新大陸のアステカ文明やアンデス文明などの文明には、牛・馬・羊・鉄器・車輪・火薬などは存在しなかった。(…)家畜類は貧弱で、ヤーマ、アルパカ、ワナコのような駱駝科の動物と、七面鳥、鵞鳥、アジア系統の犬を飼育したに過ぎない。

引用:新大陸の文明に無いもの

…結局、豚がどうなのかわからない…。

ちなみに、リャマ(ヤーマ)やアルパカ、ワナコは南米の動物なので、(たぶん)メキシコにいません。

アステカの食生活ではトウモロコシ料理に豆、野菜、カボチャ、果物、トウガラシに塩を付け合せることで、動物性タンパク質に頼らなくとも栄養的にバランスの取れた食生活を送ることができた

引用:アステカ料理

…とのことなので、豚はアステカ人にとって身近な存在ではなかったのは確かです。

しかし、アステカではタンパク質を得るために(儀式的な意味合いの方が強いですが)、「食人」の文化があったことを考えると…

当時、エキパルチェアに使えるような大きなサイズの革をゲットできる動物は、人間くらいしかいないのでは…?」…と恐ろしい結論に至ってしまいそうなので、ここで考えるのはやめにしておきます。(汗)

とりあえず、今も昔も「豚」を使っていることになっています。表向きは。

また、木の部分は「ローズウッド」が使われています。ローズウッドはどっしりと実が詰まっていて硬く、ヤニを多く含むため虫や腐敗にも強く、長持ちするため、様々な家具や道具に使われている木材です。

メキシコ原産でエキパルチェアに使われているローズウッドは、その中でも「ダルベルギア・レトゥサ( 通称、ココボロ)」と呼ばれる種類で、他のローズウッドよりも赤みが強く、独特な木目をもっています。

このローズウッドの質感や模様も、エキパルチェアの魅力の一つです。

エキパルチェアが作られている場所

エキパルチェアは、現在もメキシコの職人さんの手によって一つ一つ丁寧に作られています。

主にハリスコ州で特に生産され、現在もクラシックなものだけでなく様々なデザインが生みだされています。ハリスコ州の中でもエキパルチェア作りが最も盛んなのが、Zacoalco De Torres(サコアルコ・デ・トレス)という町です。

メキシコ第二の都市「グアダラハラ」の近くですね。

この町では、古代メキシコで作られていたころと変わらず、伝統的な作り方を守り続けています。

職人たち

職人は、オーダーで椅子を作るほか、作り置きもあります。

メキシコ人の中には、職人に直接頼んで自分の家の雰囲気にあうようオーダーメイドで作る人もいるようです!

今は(古代メキシコのころと違い)牛の皮も手に入るので、リクエストをすれば牛の皮バージョンでも作れるんだとか。

また、ホテルやレストラン用として大量発注を受けることもあるそうで、そんな時には大忙しですね。

いろいろなデザイン

3色のエキパルチェア

引用:Traditional Equipal Chair

最近は、さらに多様な材料を使い、さまざまなエキパルチェアが作られています。

上の写真は、松も木材も使われているんだそう。

それでもやはり「個性」の強さから、どんなにアレンジしてもエキパルチェアらしさはしっかり残っていて、素敵な椅子がたくさん作られています^^

日本でも話題に

実はこのエキパルチェア、日本でも何度か話題になっています。

民藝運動の活動家の間で人気に

その一番最初のきっかけは、1920年台から始まった「民藝運動」を起こした思想家、柳宗悦(やなぎ むねよし、もしくは「そうえつ」)さんだと思われます。

柳宗悦さんは1961年に亡くなるまで数十年の間、民芸運動に本格的に関わり続けた方です。そして、1936年に東京の駒場に「日本民芸館」ができると、そこの初代館長に就任しました。

そして、柳宗悦さんだけでなく、ともに民藝運動の主要な参加者であり、20世紀の日本における代表的な染色家、そして人間国宝である芹澤銈介(せりざわ けいすけ)氏も、このエキパルチェアの愛用者でした。

日本民芸館にもある

日本民芸館は今でも存在しています。わたしもついこの間はじめて民藝館に遊びに行ったのですが、「日本民芸館」といっても、日本の民藝が飾ってあるだけでなく、海外の仮面やカゴなども見かけました。

そして、民藝館の展示を見終えてお土産屋さんコーナーにふらっと寄ってみたところ、このエキパルチェアを見つけてビックリ!!

わたし
わたし
あ、これ、竹田先生のお宅にあったカッコいい椅子だ!!

…と。(竹田先生は、メキシコ・オアハカ州の村に住むアーティストの方です。かれこれ50年以上メキシコで暮らされています。)

すごく特徴的でユニークな椅子だったのでよく覚えていたのですが、まさか、こんなところで再会するとは…。(なんなら、この椅子が「エキパルチェア」と呼ばれるモノだということすら知らなかったです。)

わたし
わたし
この出会いから、エキパルチェアのことがめちゃくちゃ気になって調べる→今この記事を書いています。笑

Beams家具

最近は、「Beams」の「fennica(フェニカ)」がエキパルチェアを取り扱うようになり、さらに若い人の間で話題になったようです。

やっぱり、恰好いいですもんね。

スタンダードなエキパルチェアだけでなく「スツール」バージョンもあり、こちらはよりシンプルでかさばらないので使いやすそうです。

スツールの方は一見、太鼓のような形ですが、交差させた木の板部分がエキパルチェアらしさを醸し出しています。

お値段は高めですが、デザイナーズ家具に負けず劣らずの存在感とデザインの美しさを考えると、納得です。

エキパルチェアのあるインテリア

リビングに置く

一番多いのが、家のリビングに置くというシンプルな使い道。

かなりかさばるので十分なスペースが必要ですが、エキパルチェアが一つあるだけでとてもユニークで素敵な空間になります!

また、エキパルチェアは「メキシコの家で使う」ことを考慮されて作られているので、椅子の底の部分はクッションがありません。(床はコンクリかレンガを想定されているため。)

なので、そのまま日本のフローリングの床で使うと床をひっかいてしまうので、ちょっと注意が必要そうです。

デザインホテルでも使われている!

エキパルチェアは世界中にコアなデザイナーのファンがいて、メキシコだけでなく、世界中のデザインホテルでも利用されることがあります。

有名どころだと、「ACE HOTEL」というアメリカ・シアトル発のブティックホテルが、皮をキャンパス生地に変えた特注バージョンを利用していました。

 ACEHOTELのエキパルチェア ACEHOTELのエキパルチェア1

引用:Ace Hotel

テラスや庭に置くととってもいいかんじです!

ただし、「豚の皮」と「木の板」という、あまり雨に強くない素材でできているので、長く使う場合は屋内に置いた方がよさそうです。

屋根のある屋外(ベランダやテラスなど)だと、使い勝手がよさそうです。

経年変化も楽しめる

エキパルチェアは、背もたれと座る部分がすべて豚革です。なので、毎日のように座っているうちにより形が馴染み、色も深みが増し、美しい経年変化を楽しむことができます。

わたしが初めて見たときの竹田先生のお宅のエキパルチェアは、よく使い込まれていて、とてもいい感じでした。

わたし
わたし
長く使えて変化を楽しめる家具って、いいですね

エキパルチェアに合う家具

エキパルチェアは、結構クセが強いと思いきや、意外とどんな家具と合わせてもおしゃれに見える便利な椅子です。

おすすめは、メキシコのオアハカ州で作られるカラフルな羊毛ラグ「タペテ」や、もっとお薄手の「メキシカン・ラグ」と合わせる方法。

一気にメキシコらしい空間が出来上がります!


(↑)手前は、エキパルチェア風のソファ。おそらく特注品。

写真のようにカラフルなタペテとも相性がいいですし、椅子のデザインを引き立てるシンプルなデザインもよく合うと思います。

まとめ

以上、メキシコの伝統的な椅子「エキパルチェア」についてでした!

日本ではなかなか見かけない&手に入れにくいエキパルチェアですが、たま~にデザイン家具や雑貨のお店で売っているほか、最近はBeamsのオンラインショップでも買えるようになったので、気になる人はチェックしてみてください^^

前回、メキシコのもう一つの有名な椅子「アカプルコチェア」についても記事を書きました。エキパルチェアとはかなりテイストが違いますが、こちらもコアなファンが多い素敵な家具です。興味のある人は見てみてください^^

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