メキシコは、世界有数の手編み籠の生産国です。
数千年も昔の古代メキシコの時代から、バスケット作りはメキシコ人の重要な工芸品でした。
もくじ
メキシコで最も美しい籠「コリタ・バスケット」とは
数あるメキシカン・バスケットの中でも、「Corita basket(コリタ・バスケット)」は、メキシコで最も有名で美しい手編みバスケットです。
Photo by: Thelmadatter CC BY-SA 3.0
メキシコ北部の「Sonora(ソノラ)州」に住む、セリ族が作る伝統的な「民族アート」でもあります。
セリ族は、こちらの記事(砂漠の「鉄の木」で作る、つややかな海の生き物の木彫り)でも紹介した、「鉄の木」で作る木彫りでも有名な民族ですが、このコリタ・バスケットの方が歴史があります。
コリタ・バスケットはどのように作られる?
コリタ・バスケットの材料は、ソノラ州の砂漠に生える「torote(トロテ)」と呼ばれる植物の繊維です。
↑ トロテの樹
そして、コリタ・バスケットの特徴は、何といってもその細かい造りと美しい見た目にあります。
トロテの繊維の束を、トロテの茎内部のより柔軟な部分でコイル状に巻き、それを編んでいくので、立体感のある細かいボーダー柄になります。
さらに、繊維を染めたものを巻いて、柄をデザインすることもあります。
着色には、「クラメリア」という植物の木の皮から取れる天然着色料が使われます。この着色料は赤茶色なのですが、濃くすれば黒に近い色にもなります。
しかし、最近は人工着色料もよく使われるようになりました。
クラメリアの着色料のみを使ったバスケットは、赤茶色~黒の間でデザインされます。
多種多様なバスケットの柄&デザイン
柄は、ギザギザ模様などのシンプルな幾何学模様が多いです。
Photo by:Stevemarlett CC BY-SA 3.0 AlejandroLinaresGarcia CC BY-SA 4.0
↑複雑な柄が描かれることはあまりなく、大ぶりな柄が多いのですが、
たまに下の写真のように複雑な柄のものもあります。
Photo by: AlejandroLinaresGarcia CC BY-SA 4.0
こちらは皿型のタイプです。複雑な幾何学模様がとっても美しいですね。
皿型のタイプのものも、上に果物を乗せて運ぶなど、同じようにバスケットとして使われます。
皿型の方が平面なので、より難易度の高い模様を描きやすいです。
また、セリ族の世界観や宗教観に関する動物が描かれることもあります。
Photo by: Stevemarlett CC BY-SA 3.0 Thelmadatter CC BY-SA 4.0
左(←)のものは、真ん中がガラガラ蛇で、周りをコヨーテか犬のような動物が囲んでいます。
右(→)のものは、2種類の色の蝶が飛び回っている様子が描かれていますね。
水も運べる?!バスケットの使い道
このバスケットは、農業で得た収穫、移動するときの荷物(トランク代わり)、食べ物の保存など、水以外すべてのものを運び、保存するために使われました。
しかし実は、最もきめ細かく作られたバスケットは水すらも運ぶことができます。
それほど細かいものは最近はあまり出回っていませんが、普通のクオリティーのものでも隙間なく編み込まれます。
コリタ・バスケットを作るのは女性の仕事
昔から、バスケット作りは女性の仕事でした。
コリタ・バスケットにはある古い言い伝えがあり、「バスケットの中には、作った女性の魂のかけらが入る」、と言われています。
ひとつひとつ、とても心を込めて作っていたのでしょうね。
実際、このバスケットを作るのは手がかかっている分時間がかかります。
近年は、旅行者が増えてバスケットの「お土産物としての需要」が高まったので、男性も生産に加わるようになりました。
廃れゆくバスケットの文化
かつて、セリ族にとってバスケットは、「モノを運ぶとき」「なにかを保存するとき」のすべて用途に使われていました。
しかし今、バスケット文化は廃れゆく一方です。
その背景には、プラスチック・ビニール製品の普及があります。
ところが、ビニール袋、プラスチックのバケツ、既製品のバッグなど、より便利で安く、簡単に手に入るものが普及したため、重くて値段も高いコリタ・バスケットはあまり使われなくなっていきました。
これは、世界中どこのバスケット文化でも同じことが起こっています。
セリ族がコリタ・バスケットを作り続ける理由
コリタ・バスケットは今、実際にはあまり使われていないのにも関わらず、作られ続けています。
それはナゼなのでしょうか?
実は、セリ族はこのバスケットを、海外からやって来る旅行者に売るために作り続けています。
つまり、今、コリタ・バスケットの多くは「外国人のお土産用」に作られているのです。
コリタ・バスケットは、メキシコ北部の地理的にアメリカ合衆国に近いところで生産されているため、比較的初期のころから注目を浴びてきたメキシコ民芸でした。
手仕事としてもクオリティーも最高レベルで、芸術としての評価も高いことから、他の民芸品よりも需要があります。
なので、コリタ・バスケットはセリ族にとって重要な収入源になっているのです。
もちろん、お金のためだけではありません。
セリ族にとって、伝統あるバスケット作りを続けることは、彼らの民族としてのアイデンティティーを確立し、また再確認するために欠かせないものです。
また、「バスケットに需要がある」=「自分たちの伝統文化が認められている」という意味も持ちます。
作る理由は時代とともに変わっていっても、この伝統技術の伝承と、工芸品作りはいつまでも続けていってほしいですね。
以上、メキシコで最も美しいセリ族の「コリタ・バスケット」についてでした。