今回は、メキシコのオアハカ州にある小さな村、「テオティトラン・デル・バジェ」で作られている、サポテックラグ(=タペテ)について紹介します!
このタペテ、最近世界的にも流行っていて、特にLA系のおしゃれなインテリア業界で注目を浴びています。
もくじ
タペテとは
タペテとは、メキシコのオアハカで作られている平織の羊毛ラグのこと。
毛足が短く、デザインも豊富。
オアハカ産は「100%自然染」で作られていることでも有名です。
タペテは、サポテコの言葉では「laadi(ラディ)」と呼ばれていますが、一般的には「タペテ」と呼ばれています。英語では「サポテック・ラグ(Zapotec Rug)」。
オアハカで最も人気のお土産・民芸品の一つで、オアハカ市内のショップでもよく目にします。
↑オアハカ市内のショップにて。とても丈夫であまり日焼けもしないので、野外に吊るして売られていることも。
オアハカ産のタペテのほとんど(99%以上)が、オアハカから30kmほど離れた「テオティトランデルバジェ村(Teotitlan del Valle)」で作られています。
タペテの歴史
テオティトランデルバジェ村の織物作りには、長い歴史があります。
古代メキシコの織物作り
この村では、少なくとも紀元前500年の時点でも織物が作られていたそうで、最低でも2,500年以上は続いている文化なんです。
ただ、最初(古代メキシコ時代)は「バックストラップ(腰織)」と呼ばれるスタイルで、綿とアガベ(テキーラやアガベの材料になる植物)の繊維を混ぜて織られていました。
オアハカ市の近くにある「サント・トマス・ハリエサ」という村では、今でもこのバックストラップの技術で織物を作っています。
植民地時代
植民地時代に、スペインから羊と織り機の技術が持ちこまれてからは、現在と同じような「羊毛」を材料に「織機」で織る、というスタイルが定着しました。
そう、忘れがちですが、豚、馬、牛、羊といった今じゃ定番の家畜は、植民地時代に持ち込まれるまで、新大陸(アメリカ大陸)にはいなかったんです。
タペテの広がりと変化
数百年かけて、村が大きくなるにつれて生産者の数も増え、村の外や他の州にも販売経路が広がっていき、タペテ作りはこの村の一大産業になります。
元々は100%自然染料(草木染め)で作られていたのですが、海外から持ち込まれた化学染料に変わっていきました。
さらに販路拡大
1940年後半には、首都メキシコシティとオアハカを繋ぐ「Pan-American Highway(パンアメリカン・ハイウェイ)」ができ、販路はさらに拡大。
1950年代以降は、海外からの観光客からも人気が出始め、この小さな村の織物は世界的に有名になります。
原点回帰
その後、ほぼ廃れてしまった自然染の技術ですが、一人の職人の懸命な努力によって復活します。そして現在では、多くの家族は「自然染」の手法にこだわって作っています。
大量生産で織物がどんどん作られる世界において、それこそが、この村のタペテの「特徴」であり「価値」の一部だからです。
またそれだけでなく、自然染の技術は、この土地の人々がつちかい大切にしていた文化的・歴史的価値でもあります。
↑自然染に使う材料
「タペテを作る」ことは、この村の人々にとって、サポテコの先祖や歴史を感じ、アイデンティティを再確認する手段でもあるのでしょう。
オアハカ産タペテの作り方とこだわり
テオティトランデルバジェ村に住む、とある家族のタペテ作りを紹介します。
①羊毛を紡いで糸にする
羊毛は、オアハカの近くの村から仕入れることが多いです。
仕入れた状態の羊毛は脂やゴミでかなり汚れているので、しっかり石鹸で洗います。そして、専用の道具でほぐしてふわふわにします。
↑ほぐす道具。
そして、羊毛糸を作っていきます。
糸車を使って、紡いでいきます。紡いだ糸は、糸巻き棒にまとめます。
②自然染料で染める
次に、自然染料を使って染めていきます。
染めるための材料には、この村の周辺で取れるあらゆるものが使われます。
例えば…
- 青→日本でも使われている藍
- 橙〜黄→マリーゴールド、特殊な花の根っこ、豆など
- 赤→コチニール(カイガラムシ)
- 茶色→ザクロ
各家庭によって、少しずつ使う材料が違いますが、ウチワサボテンに寄生する「コチニール」は、どこの家庭でも使われます。
古代メキシコの時代から、コチニールはオアハカのこの土地で養殖されてきました。
↑サボテンについた白い部分がコチニール。
コチニールは「真紅」を生み出すことのできる世界でも珍しい材料で、中世のヨーロッパではとても貴重でした。
植民地時代、宗主国であるスペインは、このコチニールをオアハカから世界に輸出して大儲けしました!
メタテ(石の台)とマノ(石の棒)を使って乾燥したコチニールをすり潰します。
これを水に溶かし、石灰やレモンを使って色味を調節します。
テオティトランデルバジェ村の工房のデモンストレーションで、化学反応によって染水の色が変わる様子を見られます。まるで魔法!!
そうして作った染水で紡いだ糸を茹でて、糸に色を染み込ませます。
自然の色から、こんなにいろんな色が生み出されます!
赤系の色は、全てコチニールで染められています。
材料の状態にもムラがあるので、化学染料のように「完璧に同じ色」は作り出せません。どれもほんの少しずつ違う、世界に一つだけの色です。
ただ、この「いかに限りなく近い色味を生み出せるか」は、「織り」の他にも職人の腕の見せ所だったりします。日本の茶師に似てますね。(毎年違う茶葉をうまくブレンドして、全く同じ味のお茶にする仕事です。)
③織る
足で踏み込む式の織機を使って、織っていきます。
縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせて織る「平織(ひらおり)」という織物です。
平織の特徴は…
- 丈夫で摩擦に強い(長く使える)
- 織り方が単純で簡単
というわけで、テオティトランデルバジェ村では、子供でも小さいサイズの織物作りを遊びながら練習しています。
小さいサイズほど簡単で、大きくなるほど難易度が上がるそう。
デザインの難易度
一番簡単なデザインは、単色やシンプルな模様。
↑この左の赤・白・黒のタペテはシンプルです。右の魚の模様は、曲線があるのでかなり難易度高めです!!
↑このあたりは、サポテコの伝統的な模様がデザインされています。この村の近所にある「ミトラ遺跡」の石壁モザイクにも見られる文様です。
こういうデザインは、「定番」なので、慣れればわりと簡単に作れるそう。(といっても、かなりの経験が必要。)
難易度最高レベルは、こちら。↓
風景画。これは本当に大変です。絵の中に曲線がたくさんあり、複雑。
これ、コピー機のカラーコピーを人の手でやっているようなもので、1行ずつ「ここにはこの色がくる」と頭の中でデザインを考えながら織っていかないといけません。
慣れた職人でも、図案と睨めっこしながら作るんだそう。
↑コンペで入賞していた作品。小さいサイズでも、複雑でレベルが高いです。
↑クエルナバカ市の「ロバート・ブラディ博物館」にあった、素敵なサポテックラグ
他にも、近代アートを模写したタペテもあります。ピカソ、ダリなど。
伝統的なサポテコ文様を作ったり、近代アートを模写したり…職人さんたちの挑戦と創造性は尽きません。
タペテは、職人の努力の結晶
さて、以上3つのステップで作られるタペテですが…
ここでは触れられていない面倒で細かな作業もたくさんあります。
- 羊毛を仕入れに行く
- 染料になる植物やコチニールを育てる(自家栽培している家も多い)
- 色の研究をする
- 染めた羊毛を、色落ちしなくなるまで何度も洗う
- デザインを考案する
- 織り機の調節
などなど。織り機が壊れたら自分たちで直したり、最初からDIYしている職人もいます。
本当に、たくさんの作業の末に一枚のタペテは出来上がっているんです。
タペテが買える場所
タペテは、実は超高級品!!
日本で1m以上のものを買うと、数万円〜数十万円します。
- 日本で買う
- オアハカ市内で買う
- テオティトランデルバジェ村で買う
という順番で安くなっていきます。
生産地の村で買うのが一番安く、遠い場所で買うのが一番高いです。(輸送費など考えると当たり前ですが。)
メキシコ国内
メキシコ国内でも、メキシコシティやカンクンではほとんど見かけず、稀に見つけても非常に高価。「オアハカでしか手に入らない」と思った方がいいです。
オアハカの中でも、オアハカ市内のショップよりも村の方が安いです。
村以外では、毎週日曜限定で開催されるトラコルーラのティアンギス(先住民市場)でも販売されています。
トラコルーラ村は、テオティトラン村と同方面で近いので、多く売られています。
「トラコルーラの先住民市場」について詳しくはこちらの記事でまとめてます。↓
アメリカ
アメリカは昔からタペテを多く輸入していたので、意外と手に入れやすいです。ネット販売もあります。特に、アメリカ南部のアリゾナ州やニューメキシコ州でよく見かけます。
わたしが旅行でそのあたりに行った時も、なぜか「ナバホ族の手仕事」的な感じでお土産物として売られていました。(これ最近は、知的財産の侵害として問題になってますが😅)
日本
日本では、一部のメキシコ雑貨専門店やネットで販売されています。
楽天で何気なく検索したら、名職人「Issac Vasquez氏」の作品が売られていてビックリしました。普通にこれ欲しい。笑
Usedでいいなら、メルカリなどのフリマサイトでも出品あるようです。
また、千葉県柏市にあるメキシコ雑貨店「nada(ナダ)」さんは、サポテックラグを専門に扱っていて、デザイン豊富&お値段もとても良心的です。
テオティトランデルバジェ村で買う場合
流れや注意点を紹介します。
村まで行く
村までは、現地ツアーでも、個人でも行くことができます。
こちらの記事で村への行き方などまとめているので、参考にどうぞ。↓
村では、散策しながら気軽に工房を見学できる
ツアーで行く場合、決められた工房を訪れるだけですが、個人で行く場合、いろんな工房・ショップを見ることができます。
↑タペテが飾ってあれば、基本販売してます。
中には、タペテがずらり!
村のメインストリートを歩くだけでも、10ヶ所以上見つけることができるはず。挨拶をして工房をのぞいて、「これだ!」と思うお気に入りの一品を探してみてください。
村の職人さんたちは押し売りもせず、ちょっと恥ずかしそうに、にこやかに対応してくれる人がほとんどです。
サイズは、小さいコースターサイズ〜巨大な3畳絨毯サイズまで様々。
過度な値切りは控えて
タペテには値札はついていないので、気になる作品は値段を聞いてみてください。
提示された値段は、あまり値切らないようにしてあげてください。
「海外での買い物は値切ってなんぼ!!」という考えもありますが、ほとんどのオアハカの職人さんは、最初から正規値段を提示してくれます。
村まで行っていろんな工房を見て回るなら、「サイズごと、デザインの難易度ごとの相場」も、なんとなくわかってくると思います。
その相場からそこまでかけ離れていなければ、彼らが心を込めて手間暇かけて作った作品は、言い値で買ってあげたいところです。
いくつかまとめ買いする場合は、値引きをお願いしたら快く引き受けてくれる職人さんも多いと思います!
めっちゃかさばるので買いすぎ注意
タペテは、丸めてトランクに入れて持ち帰ることができます。
が!それでも大きいサイズのものは、トランクのスペースめっちゃ取ります!!😂
あんまりたくさん欲張りすぎるとトランクに入らないので、その場合は空輸の方法もチェックしておきましょう。(オアハカ市内の郵便局から日本に送ることができます。)
有名な職人
日本で一番有名なのは、Issac Vasquez Garcia氏。ユニークで難易度の高いデザインも多く作っています。Issac Vasquez工房はテオティトランデルバジェ村にあるので、村まで行くなら訪問必須です。
Arnulfo Mendoza Ruiz氏は、村で唯一「メキシコのフォークアートの巨匠(Great Masters of Mexican Folk Art)」という本に掲載された名人。サポテコの伝統的な柄の第一人者です。
有名な「巨匠」の作品でも意外とお得に購入できるので、ぜひ訪れてみてください。(村の人にどこに住んでるか訊けば教えてくれます)
自宅でタペテを使うときのポイント
買ったらまずゴミを取り除く
まずやらないといけないのが、この作業。
村の生産者さんたちは、とってもおおらか。ちょっとくらい植物のガラやとげ、埃が紛れていてもあまり気にしません。
ただ、日本の「靴を履かない生活」でタペテを使うと結構足の裏に刺さってチクチクすることがあります。寝転がるような空間で使うとなおさら…。なので、このゴミを明るいところで取り除きます。ピンセットで作業するのが便利です。
日本の販売者さんの中には、あらかじめこういうゴミをピンセットで一つずつ取り除いてから売ってくれているところもあるそうです。(すごい。。)そういうサービスは、日本で買うメリットですね。
屋内で使う前に一回洗う
職人の工房を訪れていろんな作品を見せてもらうとき、見やすいように広げて見せてくれるのですが…土足の地べたに直です。
しかも、最初見た時はびっくりしたのですが、普通にいろいろ広げながら、広げたばかりの売り物の商品も踏んでます😂
↑めっちゃ踏んどる〜〜っ!
どこの工房に行っても、踏みながら見せてくれるスタイル(?)なので、これが普通なのかも。
一応、屋内で使う予定なら一度洗った方が良さそうです。笑
タペテの管理方法
とても丈夫なので、普通に使ってOKです。日本で屋内で使っている限り、靴による摩擦がない分ほとんど劣化しません。
タペテを短期間ですが床で使ってみて感じたメリットは、
- 掃除がしやすい(掃除機OK、小さいものなら洗濯機で丸洗いもできる)
- 家具の跡がつきにくい
- 日焼けしにくい
という感じです。
うちは犬がいて、タペテを敷くとめっちゃ引っ掻く(というか掘る)ので、今は床には敷かずに壁に飾ってます。中型犬が本気で掘っても大丈夫なくらいなので、掃除機は余裕です。笑
「洗える」のはかなり大きなメリットで、日本の家でも使いやすいと思います。
テオティトランデルバジェ村まで行く人は、ぜひこちらの記事もチェックしてみてください😄↓
オアハカには、他にも魅力的な民芸品がたくさんあります♪↓