昨年の夏、機会をいただきメキシコの「テオティワカン」という遺跡で、1か月間ほど発掘作業のお手伝いをしていました。
その時のことを、ちょっとお話しようと思います。
もくじ
わたしがお手伝いしていた「テオティワカン遺跡」とは
「テオティワカン遺跡」とは、おそらくメキシコで最も有名な遺跡のひとつです。
(↑)こんな遺跡。かなり広く、立派な遺跡です。
トリップアドバイザーや見どころまとめサイトなどでも、「絶対」と言っていいほど紹介されている定番の見どころです。
ここの一番の目玉は、「巨大ピラミッド」。しかも登れます。
エジプトのギザのピラミッドは登れないけど、ここは登れるんです!(宣伝)
ピラミッドは公開されているところは3つあり、そのうちの二つ(月のピラミッド、太陽のピラミッド)には登ることができます。
(↑)この写真は、月のピラミッド。月のピラミッドは、半分の地点まで登れます。
タイようのピラミッドは一番サイズも大きくテッペンまで登れるということで人気ですが、月のピラミッドは考古学的にはより重要視されています。
テオティワカン遺跡は、首都のメキシコシティからもほど近い(バスで1時間)ことから世界中から多くの観光客が訪れている、有名遺跡です。
そんなテオティワカン遺跡で、わたしは1か月間、観光客の見えないサボテン畑の奥深くで日々作業をしておりました。
サボテン、けっこう刺さりました。
お手伝いすることになった経緯
私が所属していた大学にテオティワカンの第一人者の教授がたまたまいらっしゃったので、その先生の授業を受けていました。
わたしは、テオティワカン遺跡には何度も(4,5回?)は行っていたというのに、先生の授業で聞くと
「あれ?自分って本当にテオティワカン遺跡に行ったんだっけ??」
と思うほどに、遺跡をちゃんと見れていないことに気付きました。(笑)
(やっぱり遺跡って、背景知識ないとよくわかんないですね…。)
その先生が、毎年何人かの学生を連れていっている、と聞いたので、頼んで参加させてもらえることになりました。
ありがたや…。
テオティワカンから出てくるシュールな土偶たち
テオティワカンでお手伝いをしたかった理由は、
「遺跡についてもっと良く知りたい」
というのもありましたが、あとは、テオティワカンの土偶の顔が好みだったのもあります。
テオティワカンで出土する土偶って、めっちゃシュールなんですよ。。。
わたし的にとくにお気に入りなのがこれ。(↓)
めっちゃシュール…!!
テオティワカン遺跡のエリア内にある博物館(全然人来ないとこ)で見つけました。
この、遠くを見つめる憂いを帯びた表情といい、謎のおやま座りといい…
なんか、グっときます。
ゆるキャラとしてもいけそう。
あと、これ(↓)とか。
やっぱ良い。
謎のポーズと、ごてごて感のないシンプルさ。
この2体の関係性も気になりますが、特に説明されていないのでナゾです。
このテオティワカン遺跡で発見される土偶たちの醸し出す「シュールさとゆるさ」が、現在のメキシコのフォークアートの共通する「シュール×かわいい」の原点になっているような気がして。
「これを学べば、メキシコの手仕事の魅力を紐解けるのでは?!」
と考え、お手伝いができると決まった時は完全にテンションが上がりました。
(実際は、土偶に関するお手伝いはあまりなかったので、謎は解明されませんでしたが…笑)
発掘現場での作業
発掘作業では、大きいトンネルや、壁や床、階段など「重要な建物の一部」が出てきたりします。
博物館などで見ることができるような壁ですね。
が、
その辺は慎重な作業が必要になるので、慣れている熟練の人たちや研究者にまかせます。
わたしたち下っ端の初心者は、発掘の時に出てきた土をふるいにかけて、いろいろ細かなものを見つけ出す作業をしてました。(地味ですが、これも大事な作業です。)
3本の柱に、大きめの荒い網目のアミがはられたふるいがあり、そこに運ばれてきた土を入れては、ふるいにかけていきます。
ちょうどこんなかんじ。(↓)
地道な作業だし丸一日この作業をするとさすがにかなり疲れます。
あと雨の日は土が水分を吸ってものすごく重くなっているので、相当体力がいります。(というか雨の日は作業中止にしてほしいレベル)
大変ではあるけれど、なにか珍しいものが見つかると嬉しくなるし、
「発見している感」が感じられてなかなか楽しい作業でした。
見つかるもの
土の中からは、いろいろなものが見つかります。
わたしの作業範囲内で主に見つかるのは、こんなものたちでした。
- 土器のかけら
- 土偶のかけら
- 何かの骨のかけら
- 石器(黒曜石や、スレート石など)
そして、
- 骨のかけら
- 土偶のかけら
- 石器
- 土器のかけら
の順で、見つけたときのテンションが上がりました。(笑)
というわけで、わたしのいたって個人的な「発掘時にテンション上がるものランキング」はこちら。(↓)
骨はやっぱザ・発掘感がありますわ。。
土器
土器は毎回のようにたくさん出てくるので、そんなにテンションは上がりません。
「お、またおまえか。」
ってかんじです。
海岸に落ちているガラスのかけらのように、ふちや角は取れ、まあるくなっています。
だいたい茶色のシンプルなものなのですが、模様入りや色付きの珍しいものが出るとうやうやしく扱います。
土器の専門家の方いわく、土器の成分(詳細は謎)を見れば、おおよその年代がわかるそうな…。
そんな専門家がいたとは。奥深い世界ですね。
石器
土器ほどではないけどわりとよく出てくるのが、石器です。
石器は黒曜石でできた鋭いものが多く、半透明で太陽に透かすとキラキラして綺麗です。
(↑)この写真のもののように大きいものはテンションがあがりがちです。
一度、
「石器ってどれくらい切れるものなんだろう?」
と思い、その辺を草を切ってみたら、ちゃんと切れました。
土器のかけらは全部、フチや角は丸くなってしまっているのに、石器は何100年たっても鋭いままですごいなあと感動しました。
土偶のかけら
土偶のかけらは、ほんとにめったに出てきません。
完全体で出てくることはほぼありません。
ほとんどの場合、手足の一部とかです。それも、割れていたり折れていたり。
ただ、一度、「土偶の頭部分」が出てきたときは感動しました。
博物館にあるような、イヤリングを付けて、ヘンテコなショボ目をしたゆるかわ顔でした。
良き。
あと一度、土偶の完全体が出てきた!!…と思ったときがありましたが、根っこでした。
まぎらわしい~
骨
骨は、ぶっちぎりで一番テンションが上がります!!!!
来る前は、
「発掘調査を手伝うといっても、骨はさすがに重要だから触らせてもらえないだろう…」
と思っていたのですが、意外とふるいにかけると出てきました。
かつて生贄にされた動物のもの?や、なにかの背骨などだそうです。
だいたい黄ばんだ白で、脊髄部分が蜂の巣のようにスカスカしているので一目で骨だと分かります。
発掘で一番テンションが上がった時
ちなみに、1か月の発掘を通して一番テンションが上がったのは、人間の歯(奥歯)が出てきたときでした。
その奥歯の写真が!!これ!!(↓)
「ついに見つけてやったぜ!」
という感じです。
状態も良く、根っこもしっかりしています。
あと虫歯もありませんでした。
この歯を手のひらに乗せ、しばらくの間、
「数百年前、人々はどのように歯を磨いていたんだろうか…」
と、遥か昔の人々の暮らしぶりに思いを馳せました。
そして、
「もし自分がこの歯の持ち主だったら、発掘されて人に感動を与えるような丈夫な歯を誇りに思うだろう」
と…。
まさか、人の歯一本でここまで嬉しくなれる日が来ようとは。
「発掘のロマン」を感じさせられた瞬間でした。
まとめ:長い時を経て、ものを見つけ出すというロマン
いろいろ発掘していると、だいたい地味で地道な作業なので無心になっているのですが、
たま~~に、ふとこみあげてくる瞬間があります。
「今この瞬間、大昔に埋められてから数100年ぶりに、わたしという人間が再度触れているのか…!」と。
そう思うと、土器や石器のかけらから、悠久の時の流れとかなんかいろいろスゴいものを感じます。(語彙力。)
そんな気持ちで、地味で地道な作業をとにかく繰り返し、日々小さな発見を楽しんでいました。
「発掘のロマン」というと、ハムナプトラとかを見ていると、とにかく大規模で、ミステリアスかつエキサイティング、そしてデンジャラスでギラギラ(?)なイメージですが、実際は地味で地道な作業の先にあるものでした。
なので、この仕事には発掘への情熱を持ちつつも長期的に丁寧に物事をこなしていける人が向いているのかもしれないと思いました。
短距離派よりも長距離派。
一夜漬け派よりもコツコツ勉強派。(笑)
もっとえらい研究者になって熟練発掘師になれば、より重要なスポットを掘らせてもらえて、発見の内容も面白く学術的にも重要なものになってくるんだと思います。
わたしがこの「ザ・発掘現場」な作業場にいたのは最初の一週間だけです。
その後からは、出土した土器や石器を洗ったりマークを付けたりする現場に移動して、そこでほとんどの時間を過ごしていました。
作業はこのようにコツコツ地味系ですが、一緒に働く仲間はなかなかキャラが濃くて面白かったので、またいろんなエピソードを紹介したいと思います^^
(学術的な内容はあんまり期待しないでください。笑)
(↑)発掘現場からテオティワカン遺跡を見た図。
なにげに絶景ポイントでした。