仮面について語るうえで、大切なことを話し忘れていました。
仮面をかぶると何が起こるのか…つまり、「なぜ仮面をかぶるのか」ということです。
この仮面シリーズも5回目になるので、今回は根本的なポイント、「仮面の役割」について紹介しようと思います。
メキシコにおける「仮面」の存在意義とは?
メキシコで作られる仮面は、ほとんどが地域の伝統行事や祭りの中の「踊り」で使われます。
ひとつひとつの踊りにはテーマと物語があり、踊りを通してその物語を演じる「ストーリー形式」です。
そして、踊りの中で、仮面は「役」になり切るために不可欠な道具なのです。
では、仮面をかぶることで一体何が起こるのでしょうか?
仮面をかぶると何が変わる?
メキシコの伝統行事の中で仮面が使われる理由・目的は、主に3つあります。
そのどれもが、世界中の仮面文化に通じるものがあります。
1.「自己」を消す
まず、「自己を消す」ために仮面は必要不可欠です。
仮面は、かぶることで顔を隠すという効果があります。当たり前のことですが、これはとても重要です。
「顔」というのは、個人を判別する上で最も大切な部分です。人と会うとき、顔を見ずに個人を判別するのはとても難しいですよね。
仮面をかぶって顔を隠すことで、その人をその人たらしめる特徴が消えます。
そうすると、匿名性がとても高くなるので、外から見ると誰なのか判断できなくなります。
「匿名性が高い」というのは、本人に普段とは違う感覚を抱かせ、理性の縛りを緩めます。
そして、普段の自分とは違う、より大胆で自由な自分になれるのです。
たとえば、ネット社会で炎上を起こす人などは、「匿名性」の上で暴言をはいたり、面と向かっては決して言えないことを言えるようになります。
つまり、「ネット」という、個人をはっきりと写しださない空間が、仮面の役割を担っています。
こういう場面で、匿名性は問題になりがちですが、仮面においてはその「匿名性を生み出す」ことこそが最も大切で、良い効果だとされます。
1.心身ともに役に変身する
顔を隠すことによって匿名性がたかまり、「自分」という感覚が希薄になっているとき、その人は何者でもありません。
そんなとき、自分を新たに定義づけする(自分が何者なのかを決めなおす)ことで、「何者でもない不安定な状態」から脱出し、その役になりきることができます。
たとえば、ワニの仮面をかぶったとき、あなたの見た目はワニになります。(どれくらいリアルかはあまり重要ではありません。)
そして、自分をワニだと決めることで、ワニのようにふるまうことができるようになります。
それは、顔を出したままで「ワニだと思ってみて」と言われて、ワニ役のふりをする時とは、まったく感覚が異なります。
人は、「自分を外から見た状態」、つまり他人の目を常に意識する社会的な存在です。
なので、第一に「見た目が変わったこと」、そして「自分をその役だと決めたこと」によって、心身ともに変身することができます。
身近な例でいうと、車に乗っている時、体は車の中に入っているので、「自分=車」という感覚になり、少し気が大きくなる人もいます。
こういう人は大体嫌がられますが、仮面的な視点で言うと、こういう人こそが仮面をかぶるのに最適です。
「車になりきれる」というか、「自己を忘れて車を自分の姿だと思いこむ」という才能があります。
3.「見えない存在」を可視化する
仮面が使われるメキシコの「踊り」には、さまざまなテーマがあります。
「おじいさんたちの踊り」、「カトリックの人々の踊り」、「動物の踊り」など、テーマは数百数千と、数えきれないほどです。
その踊りの中で、仮面によって登場人物になりきるわけですが、「誰も見た事のない登場人物」の場合は、どうすればいいのでしょうか?
そんなとき、仮面が大きな影響力を持ちます。
仮面には、「霊魂」や「空想上の動物」という実際には見ることのできない存在を、目で見える形で表すという役割があります。
また、当時は写真もなかったので、今は姿が分からない「過去の人物」を表すのにも役に立っています。
これは、どちらかというと仮面職人の手にかかっています。その存在の「特徴」などから、姿を想像し、自分なりに仮面を通して表現します。
踊り主も、自分なりに「仮面の見た目に合っている」と思うキャラクターを演じます。
なので、そういう「本当の姿がわからない存在の仮面」は、職人の想像力に加え、踊り主の想像力も追加され、ものすごくユニークな存在が生まれます。
まとめ
仮面をつけることによって、人は、自己を消し、心身ともに変身し、そして見えない存在を表現することができるようになります。
そして、そんな仮面の効果により、役をより大胆に、そして臨場感たっぷりに演じることができます。
この状態は、一種の催眠状態に陥っているとも言えそうです。
しかしもちろん、見る側にとっては、登場人物はちゃんと役になり切ってくれた方が面白い。
演技のプロではない村人にとっては、仮面とは、演技を助けてくれる心強い味方なのです。
そう考えると、仮面をかぶらない状態で役になりきって演技をする役者さんたちは本当にすごいなあと思うし、彼らに仮面をかぶせたら、どんなすさまじい演技が生まれるのだろうとも思います。
ちょっとやってみてほしいですね。
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