「メキシコといえば革製品!」といわれるほど、メキシコでは多くの革製品が生産されています。
そんな革製品の中でも「最も美しい革製品」といわれているのが、この「Piteado(ピタード)」なのです!
Piteado(ピタード)とは
(Photo by: xellif, CC BY-SA 2.0 )
ピタード(Piteado)は、「ピタ」や「イクセル」と呼ばれるアガベ(テキーラの元になる植物)の繊維から作られた白い糸を、ベルトなどの革製品に刺繍したものです。
古代文明の時代からメキシコの民間伝承によって受け継がれてきた、とても伝統的な美術工芸品です。
とても細かい模様が丁寧に編み込まれた、メキシコで最も美しい革製品のひとつです。
刺繍のデザインには花、動物、古代(プレ・ヒスパニック時代)のシンボルがよく使われています。
ピタードの制作
ピタード作りの行程は、全て手作業で行われます。
一本のベルトに手刺繍をするのに、職人でも30日ほどかかります。
また、ピタードの制作には、構図を書く人、刺繍をする人、出来をチェックする人と、三人の専門家・職人が必要です。
ピタード制作の工程
今回は、ピタードの巨匠といわれる「Armando Gaeta Loera」さんの作業工程を紹介します。
- 革を選ぶ。スエードなど質の高いものほど加工がしやすい。
- 「buzeta(ブセタ)」と呼ばれる重い木槌で革の両面を叩き、なめらかにする。
- 刺繍の柄をえんぴつで下書きし、革をいくつかの部品に切り取る。また、後で組み合わせる時用に番号をふる。
- 柔らかくなめらかな手触りになるよう革をきれいにし、特別なナイフで表面全体をこすり、均一な厚さにする。
- 革の端部分から、刺繍をする。キリで穴をあけ、二重・三重にしたピタ(アガベ繊維)を通す
- 最後、刺繍が全て終わってから革をつなげ合わせ、完成。
これらの工程は、工房の人々によって役割分担して進められます。
アルマンドさんも自分の工房を持ち、そこでは自分の息子たちを含む何人かの職人たちが働いています。
先住民の革刺繍技術に驚いたスペイン人
500年以上前、スペイン人が植民地化のために初めてメキシコにやってきたとき、彼らはメキシコ先住民たちの作った質の高いピタードを見て、とても驚いたといいます。
スペインにも同じような民芸品があったのですが、メキシコ先住民が作ったピタードの方がずっと素晴らしい出来でした。
当時のスペイン人は、メキシコ先住民のことを「文明的に発展していない・野蛮な民族」だと思っていたので、彼らの方が優れた技術を持っていたことへの驚きは、とても大きいものだったのでしょう。
ピタードの生産地
ピタードは、ハリスコ州とメキシコシティ周辺で作られています。
特に、ハリスコ州にある「Colotlán(コロトラン)」という町は、「ピタードの町」として有名です。
コロトランには、多くの(馬の)鞍の専門店があり、たくさんのピタード職人が住んでいます。
また、ピタード職人による芸術を盛り上げる目的で、毎年ピタードのイベントが開催されています。
刺繍に使用される糸の原材料である「アガベ」は、ベラクルス州、チアパス州、オアハカ州で盛んに生産されています。
これらの地域でも、質の高いピタードが生産されています。
手作り vs 機械製
工場の多い産業都市・グアダラハラには、ピタードを自動生産するための機械が導入され、たくさんの機械刺繍のピタードが生産されています。
また、グアダラハラやサンルイスポトシのエリアでは、偽物も多く出回っています。
アガベの繊維で作られていないものを、アガベで作った伝統的なものだと言ったり、偽物の金糸・銀糸を入れたものを本物だと言って観光客に売ることもあるので、これらの地域で買う際には注意が必要です。
これらの偽物は、伝統的に手作りで作り続けている職人の暮らしを圧迫する原因にもなっています。
おすすめのピタード製品
(Public Domain Photo)
ピタードの中でも、特におすすめなのが革ベルトです。
一本一本、様々な模様が縫いこんであり、細密な刺繍がとても美しいです。
柄は、植物柄、幾何学模様などさまざま。メキシコらしい、鷲などの動物が刺繍されたものもあります。
以上、メキシコで最も美しい革刺繍:ピタードについてでした。
- 参考文献:Candida Fernandez de Calderon (2012) GREAT MASTERS OF MEXICAN FOLK ART, Fomento Cultural Banamex
- 参考サイト:Pitead <https://es.wikipedia.org/wiki/Piteado>(2017年4月19日閲覧)