日本にとっての和紙のように、メキシコには古代メキシコ時代から受け継がれている、「アマテ」という紙があります。
もくじ
「アマテ」とは?特徴と概要
「アマテ」といは、木の皮(主にイチジク科)を使って作る紙です。
和紙よりも分厚く繊維質で、折り曲げず、丸めて保管します。
主にプエブラ州の山間で、オトミ族の人々によって作られています。
自然のままの茶色のものや、脱色した真っ白な物、着色したカラフルなものなど、様々な種類があります。
それらのアマテ紙は、普通に紙として使われるほか、紙製品(本表紙・封筒など)や、ランプなどの装飾品の材料になります。
アマテの歴史
最も古いアマテは、約2,000年に作られ、その後各地で生産されていました。
現在は、お土産としても大人気のアマテ紙ですが、実は、かつてはシャーマンによる儀式な際にしか使われることのない特別な紙でした。
人々はこの紙に不思議な力が宿っていると信じており、アマテは「魔女の紙」と呼ばれていました。
しかし、スペイン人がやってきて、アマテの生産を禁止しました。
かわりに、スペイン人が持ってきた西洋風の紙(現在私たちが使っているような紙)が使われるようになりました。
その後、アマテの生産は途絶えたと思われていましたが、実は、人里離れた山間に住むオトミ族によって細々と継承されていました。
山奥までは、スペイン人もやってこなかったんですね。
現在でも、オトミ族の人々は、プレ・ヒスパニック時代から続く伝統的な方法でアマテを作り続けています。
さまざまなアマテ紙の民芸品
アマテを使った民芸品には、さまざまな種類があります。
1.二種類の民族が力を合わせて作る「絵付けアマテ」
最も簡単に見つけることのできるアマテ紙は、「絵付けアマテ」です。
鳥や動物、花などの植物が描かれます。
メキシコで大人気のお土産品で、少し変わった背景を持つ民芸品です。
「絵付けアマテ」は、こんな風に生産、流通されます。
- まず、オトミ族がアマテ紙を作ります。
- それを、ゲレロ州のナワ族に売ります。
- ナワ族は、買ったアマテにカラフルな絵の具で絵付けします。
- ナワ族は、完成した「絵付けアマテ」をメキシコシティや他の大きな街に売ります。
絵付けアマテも、「アマテ」という名でお土産屋などで売られています。
この民芸品は、「二つの民族が協力してひとつのアルテサニアを生み出している」という点において、さまざまなメキシコのアルテサニアの中でも非常に珍しい例です。
なんと、現在オトミ族の作るアマテ紙のほとんどが、ナワ族によって購入されています。
ちなみに、ナワ族の絵付けは、描いた人によって上手い・下手の差がかなりあります。(笑)
絵付けには、「作品」と「商業用」の二種類あるからです。
- 「作品」は自分の絵付け技術を総動員して丁寧に描いたもの。
- 「商業用」は、ただの土産物として流れ作業的に適当に描いたもの。
その二つを見分ける簡単な方法は、作品の下部や裏側にサインが書いてあるかどうかのチェックです。
一概には言えないのですが、職人サインが書いてあるものはクオリティーも高いものが多いです。
また、しおりや絵葉書サイズなど小さい作品もありますが、A4以上の比較的、大きめの作品の方がクオリティーが高いことが多いです。
2.アマテの切り絵
アマテの切り絵は、絵付けアマテよりもレア物です。
オトミ族の世界観がよく表れていてデザインが面白く、わたしも大好きな民芸品です。
かなり凝ったデザインの、大きな切り絵作品は、こんな感じです。↓
このように、円形の「アステカカレンダー」に似たデザインは多いです。
切り絵は、特別に薄く作ったアマテ紙を半分に折って、人間や、オトミ族が信じる「精霊」を切り出していきます。
上の写真の切り絵の中にも、人っぽい形が見えると思います。
赤い二重丸になっていますが、外側にデザインされている人型は、ほとんど精霊とオトミ族の人々です。
精霊には、「トウモロコシの神」、「ピーナッツの神」、「唐辛子の神」などいろんな種類があります。よーく見ると、腕や頭から植物が生え、その食べ物が実っています。
そして、赤い二重丸の内側の丸の方に描かれている人型は、全て人間、しかも「スペイン人」です。
オトミ族の切り絵では、「スペイン人を悪魔のように描く」という特徴があります。
おそらく、植民地時代、無慈悲に征服しにきたスペイン人を表しているんだと思います。今でもそのデザインが残っているのは、なかなか興味深いですね。
ちなみに、スペイン人、オトミ族、精霊の特徴は、以下の通り。
- オトミ族:人型、裸足
- 精霊:人型、裸足、足元が地面に繋がっている(100%ではない)、腕や頭から植物が生えている
- スペイン人:人型、ブーツを履いている(足先がとがっている)、悪魔、動物のような見た目
このリストに照らし合わせれば、切り絵に何が描かれているのかを知ることができます!
また、この切り絵はできる人がとても少なく、現在は5家族くらいしか作れないのだそうです。
3.テナンゴ刺繍&アマテ紙の組み合わせ
ほかにも、さまざまな形があります。
たまに見かけるのが、こんな風にオトミ族の作る「テナンゴ刺繍」をアマテ紙に埋め込んだもの。
オトミ族は、独特なデザインの刺繍も作っています。(むしろ紙の生産よりもこちらの方が有名です。)
ただし、紙を生産しているオトミ族の人たちはプエブラ州に住み、刺繍を生業とするオトミ族は違う州に住んでいて、刺繍とアマテ紙両方を生産している人はほぼいません。
なので、紙を作るオトミ族が、刺繍を作るオトミ族から刺繍された布を買っています。
自分たちの作る2大民芸品をミックスさせた感じですね。
同じ民族内ではありますが、絵付けアマテのように「二つの民芸品をミックスさせた」、という点で、珍しい例だと思います。
オトミ族は、ハイブリッド民芸品を作るのが得意なのかもしれませんね。
その他
ほかにも、アマテ紙を利用した写真立て、ランプシェードなど、小物や家具類も作られます。
メキシコにしかない、味わいのある素敵なお土産になります!
アマテ紙の作り方
アマテ紙は、現在でも古代から続く伝統的な方法で生産されています。
- まず、紙の材料となるイチジク科の木の皮を用意します。
- この木の皮を、バケツの水に漬け込み、柔らかくします。(真っ白な紙を作りたい場合は、この水に漂白剤を入れ、色を付けたい場合は着色料を入れます。)
- 1か月ほど漬けて木の皮の繊維が柔らかくなったら、バケツから取り出して軽く絞ります。
- ひとつひとつの繊維に分けて、目印のついた型に合わせ、網模様に繊維を置きます。
- 繊維を火山石でガンガン叩いてつぶし、広げます。(隙間があったら、繊維を少し足して石で叩いてなじませます。)
- アマテ紙のフチを、石の”辺”で整えます。
- 柑橘類の皮で紙をこすり、表面をなめらかにします。
- 装飾する場合は、ここで紙に模様を付けたり、飾りを受けこみます。
- 太陽の下で丸一日乾かします。
- 完全に乾いたら、はがして出来上がり!(完全に乾いていない状態ではがすと、グネグネに曲がってしまいます。)
アマテは、現在でも手で一枚一枚作られます。
和紙とはかなり生産方法が違うので、興味深いです。本当に、はがした木の皮の繊維をそのまま使っているんです!
産地エリア:メキシコシティ周辺
アマテ紙は、メキシコシティからほど近い、プエブラ州の山間で作られています。
村名:San Pablito(サン・パブリト)
この村に住むほとんどの人が、アマテ紙の生産に携わっています。
しかし、最近は若い生産者(=後継者)が減っているという問題があります。
特に、アマテ紙の切り絵は、現時点で生産者がとても限られている(たったの5家族!)ので、後継者を必要としています。
アマテ紙は、ほかの村ではほとんど生産されていないので、アマテ紙の生産の様子を見に、多くの外国人バイヤーが訪れているのだそうです。
さいごに
以上、メキシコの伝統紙、「アマテ」についてでした。
アマテは、メキシコシティの「シウダデラ民芸品市場」や、博物館、お土産屋で簡単に見つけることができます。
特に絵付けアマテは、値段もお手頃で、メキシコらしさがつまった素敵なお土産になるので、ぜひ自分のお気に入りの絵を探してみてください!