流行の刺繍服を見て…「手仕事」の価値がゆらぐ今、職人はどうすればいい?

今年(2017)の春服の流行りは、「刺繍服」のようで、街を歩くとたくさんの刺繍服を見かけるようになりました!

流行の刺繍服を見て、思ったことを紹介します。

今年日本で流行っている「刺繍服」

日本の、今年(2017年)の女の子の春服の流行りは、刺繍服のようです。

どの雑誌を開いても、刺繍服の特集が組まれ、街を歩いている女の子たちは刺繍服を着ています。

「流行」の力はとても強いですね。

想像以上に流行っていて、友達も着ていたりするので、「ついに刺繍服の時代が来たか!」としみじみ思いました。

日本の機械刺繍を見て驚いた!

これらの刺繍服を見て驚いたのが、刺繍のクオリティーがとても高いという点です。

わたしは、初めて刺繍に注目するようになったのがメキシコだったのですが、メキシコで見た機械刺繍のクオリティーはかなり低く、メキシコで多く作られている「手刺繍」の服と比べても、違いは明らかでした。

しかし、最近日本で流行っている刺繍服を見てみると、機械製のはずなのにとてもクオリティーが高いので驚きました。

クオリティーが低い服もたまにありましたが、売られてる商品のほとんどが、手刺繍にかなり近いクオリティーなのです。

日本人は、基本的にしっかりしたもの・クオリティーが高いものしか買わないので当然かと思いますが、売られている段階ではほつれや糸が飛びだしていることも全くなく、中には機械刺繍かどうか表側から見てもわからないものもありました。

これを見てわかったのは、機械刺繍の技術がとても進歩している、ということです。

いままで、手刺繍には決して適うことのなかった機械刺繍が、徐々に手刺繍に追いついてきています。

今の時点で、クオリティーの低い手刺繍よりも、機械の方がよっぽど綺麗に刺繍できます。

手刺繍の価値のゆらぎが起こる!

クオリティーの低い手刺繍の価値が落ちる

機械刺繍のクオリティーが上がるということは、何を意味するのでしょうか?

それはつまり、相対的に見て、機械刺繍よりもクオリティーの低い手刺繍の価値が、落ちるということです。

「手刺繍」自体に商品価値はない

「手刺繍だから価値がある」と思われますが、消費者の目線でいうと、「手刺繍であること」自体には、価値はありません。

価値があるのは、「クオリティーの高い刺繍」です。

いままでは、「手刺繍=クオリティーが高い」でした。なので、まるで「手刺繍=価値が高い」ように思われていました。

しかし、消費者が本当に求めているのは「クオリティーの高い刺繍」なので、クオリティーが高ければ機械製でも充分需要はあります。

クオリティーが低くても、値段が高くても、それでも手刺繍の方がいいと思えるのは、おそらくメキシコの文化に対して、もしくは手仕事へのこだわりがある人だけで、他の多くの人にとっては、買う時に重視するのは「商品自体のクオリティー」と、「コストパフォーマンス」です。

メキシコ各地で作られる「商用刺繍」とは

メキシコでは今、「商用」と呼ばれる、伝統的な刺繍服を短い時間でささっと作ったシンプルなバージョンがよく作られています。

伝統的な刺繍服は、真剣にクオリティーの高いものを作るとかなり長い時間(場合によっては数か月!)かかりますが、それを3、4日で仕上げたものです。

それらの刺繍は、「求めやすい値段で簡単に作れるものを大量に作ったもの」、つまり悪く言えば、クオリティーが低いものです。

労働が報われなくなる

商用手刺繍を売るには、将来的には機械製と値段競争することになります。

クオリティーの低い商用手刺繍は、機械製にとって変わられてもまったくおかしくないからです。

機械製の方がクオリティーが高く、安く生産できるので、より多くの需要があるのは、むしろこっちかもしれません。

そうなると、クオリティーは高くないといえども、手作りして時間をかけて商用手刺繍を作っているのに、その手間がむくわれなくなります。

機械製のものにコストパフォーマンスが負けてしまうので、作り手にとっても「作る意味」がなくなります。

機械製が入ってくるのはもはや避けられない

「機械製が入ってこなければ、商用刺繍を守れる」、という意見もありますが、現実的に考えて、それはムリです。

機械製が入ってくることは、需要がある限り避けることはできないのです。

商用刺繍はだれのためのもの?

商用刺繍は中途半端な存在なのか?

商用刺繍にも、もちろん「文化的な価値」はあります。

簡単に作ったものの方が、やはり普段着としても着やすいのかもしれません。

しかし、わたしがいろんな村を巡っても、商用刺繍の服を着た地元の人はあまり見かけませんでした。

どこの地域の刺繍衣装でも、みなできればクオリティーの高いものを着ていたいのです。

それは、自分たちの文化に誇りを持っているからだと思います。

外国人観光客のニーズを考える

つまり、商用刺繍を着ているのは、だいたいが作っている本人たちではなく、”観光客”なのです。

それも、外国人が多い。メキシコの民芸品は全体が、「外国人によって価値を”再発見”された」歴史を持ち、今でも外国人(特にアメリカ)からのオーダーはとても多いので、やはり外国人のニーズを知ることは、生き残っていくうえで大切です。

そして、その外国人観光客で刺繍服を買う人は、だいたいこのふたつに分けられます。

  • 値段が高くても、クオリティーの高いものを手に入れたい⇒本物を買う
  • なるべく安く、それっぽいものが手に入ればいい⇒商用を買う

そして、この二番目の人々は、「手刺繍であること」に対するこだわりはあまりないです。

より安い機械製が入ってこれば、これが丸ごと機械製にとって代わられる可能性はです!

伝統と手刺繍はどう生き残っていけばいいのか

職人たちはどうすればいいのか

では、手刺繍の職人たちはどうすればいいのでしょうか?

2つ方法があります。

1.機械製と張りあう必要のない、「本物」のジャンルで勝負する

商用刺繍では、近い将来機械に太刀打ちできなくなります。

しかし、昔作られていたような、クオリティーの高い「本物」の伝統衣装を作るようにすれば、そこの領域には機械は入りこめません。

ものすごくクオリティーの高い機械を使っても、やはり心をこめて時間をかけて丁寧に刺繍した作品にはかなわないからです。

2.新しいデザインを考え続ける

デザインは、もちろん伝統的なデザインを受け継いでいくのは大切ですが、それだけでなく常に新しいデザインを模索し、表現する努力を続けることが大切です。

機械製は、マネするのは得意ですが、新しいデザインを生み出すことはできません。

商用のクオリティーが低いものであっても、工夫されたデザイン、斬新なデザインは人の手によってのみ生み出されます。

少しずつでもいいから、新しいものを生み出し続けることで、機械とは一線を画し、「自分たちが第一線だ」という自覚を持ちつづけることができます。

メキシコの刺繍職人にも変化が求められる

時代とともに、市場は、変わっていきます。需要も供給も、知らないところでどんどん移り変わっていきます。

「今まではこれでやってこれたから、これからも同じようにやっていけばずっとうまくいく」、というわけにはいかないのです。

伝統的な仕事をする人にも、世の中を知り、対応する努力が求められます。それができないと、取り残されて損するのは自分だからです。

世界中のすべての伝統産業において、同じことが言えます。

 

今、日本で流行っている刺繍服のデザインの中にも、メキシコのものと似たような柄で、しかもとてもクオリティーが高い機械刺繍を見かけます。

それを見ると、これから、こんなに機械と技術が進歩した世界の中で、人々がコストパフォーマンスを求め続ける中で、

メキシコの職人がどう時代の流れに積極的に対応していけるかが、その地域の文化を守るためにはとても大切だと思うのです。

さいごに

もちろん、伝統的なものを作り続けてきた職人もたくさんいます。その人達は、これからもその調子で頑張っていってほしいと思います。

ここ数十年で、観光客のニーズに答えるため、そして生活をしていくために、数か月に一枚しか作れない「本物」ではなく、大量生産できる「商用専門」に転身した職人もたくさんいました。

しかし、そんな商用に転身した職人は、いい意味で「柔軟性」を持っています。時代の流れを読み取って、ニーズに答えることに積極的な人たちです。

彼らの「本物を作る」技術が忘れ去られず、常に向上心をもって、コミュニティー間でうまく教え合える環境があれば、伝統刺繍は機械刺繍につぶされないはずだと信じています。

わたし自身、メキシコ刺繍の大ファンなので、メキシコの刺繍にはうまく行き残っていってほしいなあと強く願っています。